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踏切事故で亡くなった人から財布盗んだ疑いで逮捕、死者相手なら「窃盗」じゃなくなる?
画像はイメージです(モミアゲ / PIXTA)

踏切事故で亡くなった人から財布盗んだ疑いで逮捕、死者相手なら「窃盗」じゃなくなる?

電車ではねられて死亡した男性の財布を盗んだとして都内の男性が逮捕されたというニュースが「人間として最低」と話題になっている。

NHK(10月4日)によると、事件が起きたのは今年8月。東京・中野区で自転車に乗った50代の男性が誤って踏切に侵入し、電車にはねられた。男性は病院に運ばれ、死亡が確認された。

被疑者は、倒れている男性の所持品から財布を盗み、現金を抜きとったうえで戻したとみられ、窃盗の疑いで逮捕された。

●刑法の授業で習う「死者の占有」

ネットでは「外道」など非難の声が多数だが、窃盗で起訴できるのかと疑問を呈する声も一部に見られる。というのも、この事例が法学の授業によく登場する「死者の占有」という有名論点にかかわっているからだ。

大雑把に言うと、盗まれた物に亡くなった人の支配(≒占有)は原則として及んでおらず占有離脱物横領となるが、死亡直後ではまだ及んでいるケースも考えられるのではないかという問題で、もし及んでいるとすれば窃盗罪として扱われることになる。

今回のケースを例に、司法試験予備校の講師もつとめる西口竜司弁護士に解説してもらった。

●死後どのくらいまで亡くなった人の占有物と言えるか?

「最近、私の沿線でも人身事故が後を絶ちません。新型コロナの拡大が影響しているのかなと思いますが、痛ましい気持ちで一杯です。そして、今回の報道を聞いてかなり驚きました。そんなことを考える人がいるのかという印象です。まずは救護を考えてほしかったですね」

――NHKの報道では、近所の人が「事故直後は男性がまだ生きていて、苦しそうな声が聞こえていた」旨を語っていました。

「事実関係は不明ですが、生きている人から財布を取っているといえれば、刑法235条の窃盗罪に当たる可能性が高いです。

ただし、財布の持ち主がすでに死亡していたような場合、死者の占有という難しい問題が出てきます。当たり前のことを書くと、死後2年も経過しているといったような場合、亡くなった方が占有をしているとはいえず占有離脱物横領罪が成立するだけです。

一方、死後2~3分といったような場合どうでしょうか。科学的に言えば亡くなられているわけですから窃盗罪ではなく、占有離脱物横領罪になるようにも思えます。要は守るべき占有というものがないので犯罪が変わります。もちろん、窃盗罪と占有離脱物横領罪の量刑についても罪の重さの違いから窃盗罪の方が圧倒的に重くなります。

しかし、人の死亡時期については、心肺停止状態という言葉があるように不明確なことが多いですね。たまたま亡くなっていれば占有離脱物横領罪、生存していれば窃盗罪というのも変です。

死者の占有は殺人事件のときに問題になることが多いのですが、判例は、殺害犯人との関係で、時間的・場所的に接着した範囲であれば全体的にみて被害者の生前の占有を保護して、窃盗罪の成立を認めます。かなりイレギュラーな考え方ですね」

――殺人事件ではない今回はどう考えられますか?

「事実関係がはっきりとしていないので何とも言えませんが、盗んだ時点で被害者の方が亡くなっていれば占有離脱物横領罪になるでしょう。殺害犯人ではないときは、前述の判例のように生前の占有を保護するという理屈は当てはまりません。

他方、被害者の方が生存されていた場合、窃盗罪の可能性もありますが、死亡していると犯人が思っていたような場合、同罪の故意が否定されてしまい、占有離脱物横領罪になってしまう可能性もあります。生存されていることをわかっていれば窃盗罪になります。いずれにせよ後味の悪い事件です」

プロフィール

西口 竜司
西口 竜司(にしぐち りゅうじ)弁護士 神戸マリン綜合法律事務所
大阪府出身。法科大学院1期生。「こんな弁護士がいてもいい」というスローガンのもと、気さくで身近な弁護士をめざし多方面で活躍中。予備校での講師活動や執筆を通じての未来の法律家の育成や一般の方にわかりやすい法律セミナー等を行っている。SASUKE2015本戦にも参戦した。弁護士YouTuberとしても活動を開始している。現在はXリーグ復帰に向けて日夜トレーニングに励んでいる。

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