長崎県佐世保市で今年7月に起きた女子高生殺害事件で、逮捕された少女が通っていた県立高校の校長や職員が、少女の「問題行動」を知りつつ、警察などに通報していなかったことが県などの調べで分かった。
長崎県によると、少女が3月に父親を金属バットで殴って大ケガを負わせたことを、県立高校の職員が3月末から4月始めに把握。校長も4月下旬に報告を受けたが、職員や校長は、「教育的配慮」から、警察や児童相談所に通報しなかったという。
他人をバットで殴れば犯罪だ。公務員には職務上、「犯罪」が起きた事を知ったら、通報・告発する義務を負っている。今回、校長や職員は「通報義務」と「教育的配慮」の板挟みになっているように思えるが、こうした場合、どうすればいいのだろうか。教育問題にくわしい宮島繁成弁護士に聞いた。
●教育という「本来の業務」が優先
「法律では、公務員は、職務上犯罪を知った場合は告発をしなければならないとされています(刑事訴訟法239条2項)。
告発とは、犯罪行為と直接関係のない第三者が、犯罪が起きたことを捜査機関に報告し、処罰を求める行為です」
今回、学校側は告発をしなかったわけだが、それはどう考えるべきだろうか?
「犯罪の捜査は大事なことです。
しかし、公務員にはそれぞれ本来の職務があります。学校は、児童・生徒を教育する場です。教師が児童・生徒の問題行動を認めた場合、まず教育のプロセスの中で対応することを考えるのは当然といえます。
こうした教育という『本来の職務』を損ってまで、告発すべき義務があるわけではありません」
●「学校が告発するのは難しかったケース」
すると、学校は犯罪が行われていることを知っても、通報すべきではない?
「そこまでは言えません。
たとえば、犯罪の程度が重大であったり、教育や指導では対応できないような場合は、警察に連絡したり告発すべき場合もありえます。
ですので、学校にとって告発は、義務かどうかというより、選択肢の一つとしてとらえるのが適切ではないかと思います」
それでは、今回の学校の選択は妥当だったのだろうか・・・。宮島弁護士は次のように述べていた。
「今回は、事案や生徒の特性について見極めが難しいケースで、被害者である父親を差しおいて学校が刑罰を求めるというのは、実際のところ難しかったのではないかと思います」