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武道有段者、孫娘に暴力を振るおうとした「若者」に蹴りで反撃、「正当防衛」になる?
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武道有段者、孫娘に暴力を振るおうとした「若者」に蹴りで反撃、「正当防衛」になる?

「義父が私の娘に不埒なことをした酔っ払った若者と喧嘩になって逮捕された」。そんな書き込みがネット掲示板に投稿され、「正当防衛にならないのか」という点をめぐって議論となった。

投稿者によると、お祭りの会場で酔っ払った若者が、投稿者の娘に性的な発言をしたうえ、暴力を振るおうとしたため、一緒にいた義父が蹴りで反撃。武道有段者である義父の蹴りを受けた相手は骨折した。その結果、義父は、傷害の疑いで警察に逮捕されてしまったのだという。

義父は「相手が暴力を振るおうとしたので制止したが聞かず、孫に危害が及ぶと考え仕方なく牽制で蹴りを出した」として、「正当防衛だ」を主張しているそうだ。

一方、投稿者の書き込みに対しては、「逃げればよかった」「やっぱり手を出したら駄目なんだよ。しかも有段者となると尚更」と、武道有段者の義父が蹴りで対抗したことに疑問の声が上がっていた。義父の行為は「正当防衛」にあたらないのだろうか。刑事事件を取り扱う近藤公人弁護士に聞いた。

●義父の行為に「相当性」があるのか

「正当防衛が成立するためには、義父の傷害行為が、刑法36条の『急迫不正の侵害に対して、自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずした行為』であることが必要です」

近藤弁護士はこのように述べる。

「今回のケースでポイントとなるのは、義父の行為に『相当性』があったかという点でしょう。

相当性とは、『法益の相対的な均衡』と『防衛手段の相当性』から判断すべきとされています。

『法益の相対的な均衡』というのは、噛み砕いていえば、防衛行為によって守られる利益と、それにより失われる利益のバランスがとれているかということです」

●必要最小限度の行為だったのか、疑問が残る

今回のケースで、相当性は認められるだろうか。

「単に『有段者』というだけでは、正当防衛を認めないという理由にはなりません。

しかし、『有段者』の場合、日々鍛錬をしているので、どの程度の蹴りでどのような結果が生じるか、ある程度予測できるのではないでしょうか。

また、骨折という重大な結果が生じていますので、必要最小限度の行為だったのか、疑問が残ります」

問題の若者は、投稿者の娘に暴力を振るおうとしていたようだが、そういう状況は関係ないのか。

「若者が投稿者の娘に暴力をふるうことによって、骨折か、それと同じぐらいの傷害結果が生じるような危険があれば、正当防衛が成立する可能性があるといえるでしょう。

しかし、若者は相当酔っぱらっていたようですから、蹴りではなく、手で押しのけるといった対応で、十分だったかもしれません。

明らかになっている事情のもとでは、義父の行為は『相当性がない』として、正当防衛が成立しない可能性が高いでしょう。

ただし、義父の行為は、防衛のための行為だけど、やりすぎだったとして、過剰防衛が成立する可能性があります。過剰防衛が認められると、情状によって刑が減軽されるか免除されます(刑法36条2項)」

近藤弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

近藤 公人
近藤 公人(こんどう きみひと)弁護士 滋賀第一法律事務所
モットーは「依頼者の立場と利益を第一に」。滋賀県内では大きな法律事務所に所属し、中小企業の法務や、労働事件、家事事件など、多種多様な事件をこなしている。

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