競馬の外れ馬券の購入費を経費と認めず、追徴課税したのは違法だとして、北海道の男性が、国税局の課税処分の取り消しを求めた訴訟の控訴審判決が4月21日、東京高裁であった。菊地洋一裁判長は、課税処分を適法とした1審判決を取り消して、男性の逆転勝訴の判決を言い渡した。
判決などによると、男性は2005年から2010年までの6年間にわたり、計約72億円分の馬券を購入して、計約5億円あまりの利益をあげた。外れ馬券の購入費を経費として確定申告したが、国税局から当たり馬券分しか経費として認められず、約1億9000万円を追徴課税された。
1審の東京地裁は昨年5月、男性の外れ馬券の購入費を「一時所得」として経費と認めない判決を下していた。2審の東京高裁の菊池裁判長は「網羅的に馬券を購入して利益を上げる独自のノウハウを有していた」「経費の計上が認められる経済活動に当たる」として、追徴課税を取り消した。
外れ馬券の購入費をめぐっては、最高裁が昨年3月、大阪市の元会社員の馬券購入について、「長期間、網羅(もうら)的な購入で経済活動の実態がある」として、経費として認める判断を示していた。今回、北海道の男性がどうして逆転勝訴できたのか。中村和洋弁護士に聞いた。
●最高裁判決と同じロジックの判決だった
「今回の東京高裁判決は、昨年の最高裁判決とロジックが同じです。むしろ、1審判決が最高裁判決の射程範囲を狭く解釈しすぎていたものといえます」
中村弁護士はこのように切り出した。
「昨年の最高裁判決は、馬券購入行為の期間、回数、利益の規模等の事情を総合考慮して『営利を目的とする継続的行為かどうかを判断すべき』としました。最高裁の当事者が競馬予想ソフトを利用して自動購入していたことは、その一例とされたにすぎず、かならず必要な条件ではありません。
東京高裁は今回、この男性が6年間にわたって、多くの利益を恒常的に得ていたことに着目して『雑所得である』と認定し、外れ馬券の購入費も経費として判断しました。この判決は、まさに最高裁判決の趣旨に沿うものといえます」
●「合理的な制度設計を作り直すべき」
そもそも、競馬の払戻金をめぐる課税ルールはどうなっているのだろうか。
「馬券の払戻金は、原則として、偶然発生した所得ということで『一時所得』に該当するとされています。その場合、当たり馬券の購入費だけが経費となります。
例外的に、『営利を目的とする継続的行為』に該当すると評価されれば、外れ馬券の購入費も経費となります。
ただ、どの程度の規模や金額になれば『雑所得』と認めていいのかという区別の基準が、そもそも難しいです。
また、一時所得の場合、所得を2分の1にして計算します。たとえば、『WIN5』(JRAが指定する5つのレースそれぞれで1着を予想し、5レースすべての1着を当てる馬券)を100円ずつ何通りか買って、1億円の配当を得た場合、外れ馬券の購入費が、馬券の払戻金とくらべて圧倒的に少額になります。この場合、雑所得よりも、一時所得とされるほうが税金が安くなります。
このように馬券の払戻金が、雑所得になったり一時所得になったりして、外れ馬券の購入費が経費になったりならなかったりするので、混乱を招いています。
そもそも、外れ馬券を経費にしないとトータルで損をしている場合も、税金を払わなければならないという理不尽な事態となります」
馬券の課税ルールをどうすべきだろうか。
「競馬などの公営ギャンブルについての課税については、その制度設計を見つめ直し、非課税、あるいは払戻金からの一律の源泉分離課税にするなど、合理的な制度が構築されるべきです」
中村弁護士はこのように話していた。