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中学受験「合格」から一転「不合格」に・・・通知ミスの学校に慰謝料を請求できる?
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中学受験「合格」から一転「不合格」に・・・通知ミスの学校に慰謝料を請求できる?

「受験合格」の喜びが一転、「不合格」の絶望に変わる出来事が起こった。佐賀県立武雄青陵中学校が1月28日、入学者選抜の合否通知で、本来不合格だった受験者1人に対し、合格と記載した文書を誤って送付していたことを発表した。

報道によれば、本来は不合格にもかかわらず、合格の通知を郵送で受け取った保護者から「合格者に入っているはずの入学意思確認書などの文書が入っていない」との連絡があり、ミスが発覚したという。学校側は保護者に対して、経過を説明して謝罪したという。県教育委員会は、「選抜は適正に行われた」として、不合格の結果に変わりはないと判断したそうだ。

このニュースに対して、ネット上では「可哀想すぎる」「不合格は不合格として仕方ないが、心に傷を負わせてしまったことへのケアと保証はちゃんとしたれよ」といったコメントが見られた。

今回のように、受験の合否の通知ミスで精神的苦痛を受けた場合、ミスをした学校側に慰謝料を請求できるのだろうか? 高島惇弁護士に聞いた。

●「損害賠償を請求できる余地がある」

「結論としては、ミスをした学校に対し、損害賠償を請求できる余地があります」

高島弁護士はこのように述べる。

「今回の学校は県立の公立学校でした。公立学校に対しては、学校を管理する自治体に対し国家賠償法に基づいて損害賠償を求めることができるでしょう。また仮に、私立の学校の場合には、ミスをした職員の行為について、不法行為責任を追及するとともに、職員の雇用主である学校に対し、使用者責任(民法715条1項)を、それぞれ追及することになります」

具体的には、何についての損害を請求できるのだろうか。

「まず、精神的苦痛に対する慰謝料が考えられます。具体的には、その学校で学ぶなど、充実した学校生活に対する『期待権』の侵害が想定できるでしょう。

事案は異なりますが、合格後に元宗教団体教祖の娘だとわかり、大学への入学を拒否された『和光大学入学拒否訴訟判決』(2006年)においても、『大学において学ぶ可能性を閉ざされ』、『人生の途を閉ざされたという心境に陥ったものであり、大きな精神的苦痛を被った』として、精神的苦痛について慰謝料が発生することを認めています」

ネット上には、「誤った通知を受けて他の私立中学を辞退した人がいたりしたら、人生に関わる大変なことになる」という意見もあった。

「誤った合格通知を信じて、他の中学校の受験を辞退したというだけでは、受験しても合格するかどうか定かではない以上、慰謝料請求はやや難しいかもしれません。ただこの点は、弁護士によって見解が分かれると思います。

これに対し、他の中学校に合格して既に学納金を支払っていたにもかかわらず、間違った合格通知を信じて入学を辞退した場合には、慰謝料や無駄になった学納金について、別途賠償を求める余地があるでしょう。

合否通知のミスは、未成年者の人生に影響する重大なことです。学校としても、ミスが決して生じないよう何重にもわたるチェック体制を設けることが必要不可欠ではないでしょうか」


高島弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

高島 惇
高島 惇(たかしま あつし)弁護士 法律事務所アルシエン
学校案件や児童相談所案件といった、子どもの権利を巡る紛争について全国的に対応しており、メディアや講演などを通じて学校などが抱えている問題点を周知する活動も行っている。近著として、「いじめ事件の弁護士実務―弁護活動で外せないポイントと留意点」(第一法規)。

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