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自衛官の安保出動拒否、審理差し戻し、「司法の黙認が許されないことを示した」猪野弁護士が指摘
陸上自衛隊(akiyoko / PIXTA)

自衛官の安保出動拒否、審理差し戻し、「司法の黙認が許されないことを示した」猪野弁護士が指摘

安全保障関連法に基づく防衛出動は憲法9条違反だとして、茨城県の陸上自衛官の男性が国を相手取って、「存立危機事態」での命令に従う義務がないことの確認を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は1月31日、訴えを却下した東京地裁判決を取り消し、審理を東京地裁に差し戻した。

報道によると、杉原則彦裁判長は、「出動命令に従わない場合、刑事罰の懲戒処分を受ける可能性があり、訴えの利益はある」と述べた。安保関連法をめぐる現役自衛官の「訴えの利益」を認めて、裁判で争えるとした判断は初めてだという。

自衛官の男性は、命令に従うと生命に重大な損害が生じる可能性があるとして提訴。地裁判決では、「原告に出動命令が発令される具体的・現実的な可能性があるとは言えない」として、裁判では争えないとしていた。

今回の判決は画期的だとも指摘されているが、どう評価すればいいのだろうか。憲法問題に詳しい猪野亨弁護士に聞いた。

●出動命令が発動されていない現段階でも不利益を想定して認めた

今回の判決の画期的な点は、安保関連法に基づく出動命令について、発動されていない現段階でも出動拒否をした場合の受ける不利益を想定してそれを正面から認めたことです。しかも戦闘部隊に配属されていないことについても対象とした点です。

安倍政権は導入時には安保関連法によって平和が保たれるかのように説明をしていましたが、高裁判決は、そうではなく実際に発動される可能性、さらにはそれが実際の戦闘部隊ではない場合でも出動命令が下される可能性があることを前提したという意義があります。どの部隊に配属されるかに関わらず入隊時には「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め」と宣誓することから当然の帰結と言えます。

●門前払いした一審判決には、憲法判断をしたくないという本音が見える

裁判所で争うためには、現実的な不利益を負う可能性が必要ですが、一審判決は、自衛官の置かれた危険は抽象的なものに留まるとして門前払いしたのです。背景には政治性を有する安保関連法に対する憲法判断をしたくないという本音も見えてきます。この論理に従えば、「存立の危機状態」になり、さらに具体的な命令が発動される具体的・現実的可能生があるときまで提訴できませんが、それではあまりに対象範囲が狭すぎて裁判所による救済の可能性そのものを否定することになります。

●高裁判決を前提にすると、安保関連法そのものの違憲性を問題にせざるを得なくなる

高裁の提起する危険の可能性を前提に審理を行えば、国(防衛省)がその自衛官には絶対に安保関連法に基づく出動命令を出さないと確約しない限りは、安保関連法そのものの違憲性を問題にせざるを得なくなります。

つまり「存立の危機状態」自体が曖昧な概念であり、どのような場合を想定しているのか国会審議でも政府答弁こそ具体性がなく、その判断は政府が第一義的には行うのですから違憲の出動命令が出される可能性は十分にあるわけです。

●高裁判決は司法が黙認することは許されないということを示した

特に専守防衛を想定して入隊した自衛官にとっては安保関連法により自衛隊の性質が大きく転換してしまうことになり、今まで以上に生命の危険にさらされる可能性が高くなったのですから、安保関連法に基づく命令を拒否して刑事裁判の中で争う、生きて帰還できれば精神的苦痛に伴う損害賠償請求(国賠)を提起するとかではなく、事前に正面から違憲性を争えるようにすることは当然です。

しかし、これに止まらず司法の果たすべき役割はそれに止まらず、立憲主義を回復させ、違憲判決が射程に置かれなければかえって安保関連法に「合憲」のお墨付きを与えることになりかねません。

今回の東京高裁の判決は、この安保関連法に司法が黙り(黙認)でいることは許されないことを示したとも言えます。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

猪野 亨
猪野 亨(いの とおる)弁護士 いの法律事務所
札幌弁護士会所属。離婚や親権、面会交流などの家庭の問題、DVやストーカー被害、高齢者や障害者、生活困窮者の相談など、主に民事や家事事件を扱う。

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