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杉本彩さん「人は動物に救われ、大きな力を与えられている」 愛護法「厳罰化」への思い
動物愛護活動に取り組む杉本彩さん

杉本彩さん「人は動物に救われ、大きな力を与えられている」 愛護法「厳罰化」への思い

動物愛護法の改正が予定されている今年、動物愛護団体から、動物取扱業に対する規制を強化すべきという声が強まっている。動物愛護活動に取り組む女優で、公益財団法人 動物環境・福祉協会 Eva 代表の杉本彩さんは、動物虐待の「厳罰化」をうったえる。ペットブームの影で、目を覆いたくなるような虐待事件が起きているからだ。杉本さんに、法律のあり方や動物への思いについて聞いた。

●撮影所で病気の子猫を保護した

――動物愛護の活動にかかわるようになったきっかけは?

20代のころ、仕事中に撮影所で一匹の病気の子猫を保護しました。その子を看病し、里親さんを探し譲渡しようとしたのですが、しばらくお世話をしていたので情が移ってしまい、譲渡するときに号泣してしまいました。だからと言って、そのときの感情に流され、自分の手元に置くのは違う、そうしてしまったら、この子と同じような子に今後遭遇したときに、手を差し伸べるのを躊躇してしまうと思いました。それが私の動物愛護の第一歩でした。今から思うと、そのときは、ここまで活動を広げるとは考えてもみませんでした。

そのあと、地域の動物たちにアンテナを張るようになったからだと思いますが、同じように助けをもとめている猫に遭遇するようになりました。個人的に地域密着型の保護活動をしていくうちに、ご近所のいろいろな方とつながり、次第に私のところに相談が来るようになりました。

たとえば、「明日取り壊される建物で、猫が出産した」という情報提供があって、夜中に懐中電灯を持ってレスキューに行ったり、野良猫に不妊・去勢手術をしたり、地道な活動をつづけていました。活動していくには、不妊・去勢手術費など、どうしても費用がかかってくるので、近所のバイク工場を借りて、チャリティーバザーをはじめ、自分の服やバッグを売っていました。

――そうした活動を本格化させた転機は?

経営破綻した犬のテーマパークで、たくさんの犬が放置されて、衰弱した状態でみつかる事件がありました(2005年・ひろしまドッグぱーく事件)。テレビの報道番組で知り、いたたまれなくなって、すぐに現地に向かいました。地元の人から話を聞いていく中で、日本の法律やルールに問題があるということを知りました。

そして、「いかに啓発活動が大切か」ということ考えました。使命感にかられて、個人で保護活動しながら、啓発活動にも取り組むようになりました。ただ、活動を続けていくと、個人の限界を感じました。それで、組織をつくって、大きな声にしていかないと、物事は変わっていかない、というところにたどりついて、動物環境・福祉協会Evaを立ち上げました。

●動物虐待の動画に「心が壊れそう」になることも

――活動をつうじてショックを受けることは?

やはり、動物虐待ですね。通報があるかぎり、しっかり確認しないといけないのですが、いつも心が壊れそうになります。集中的にああいうものを見てしまうと、「世の中ってどうなっているんだろう」「人間っておそろしい」という絶望的な気持ちになります。でも、あきらめて、目を反らすことはできません。誰かが気付いて、行動していかないと、ますます世の中が悪い方向にむかっていくと思います。

――動物愛護法の厳罰化は、むずかしいのか?

動物愛護法を厳罰化する場合、ほかの法律との整合性やバランスを踏まえて検討していくのはわかります。ただ、動物虐待において、そんなに整合性やバランスをとることがはたして必要なのでしょうか。今起きている動物虐待事件をしっかり直視していただいたうえで検討してもらいたい。先日も、法制局の人たちにそう訴えかけました。

ところが、「そもそも動物に福祉という考え方は日本の法律の中にない」とバッサリと切られてしまいました。「動物愛護法は本当に限界がある」ということを突きつけられました。いまの法律は、「人間」と「モノ」という2つしかありません。そこに「動物福祉」を反映させていくためには、生半可なやり方ではなくて、根本のところを変えていくしかないのです。

――法律そのものが「人間中心的」。このあたりについてはどう思うか?

動物愛護を検討している人たちは、人間の権利や営業の利益を守ることが中心となっているため、本来の動物愛護から論点が反れていると思います。これでは、何も変わりません。動物を通して利益を得る人たちを守る組織と、動物愛護を推進していく組織を分けるべきでしょう。そして、動物愛護じゃなくて、やはり動物福祉ですよね。その考えをもっともっと法律に反映させていくようなベースをつくらないと限界があると思います。「かわいい」や「かわいそう」など、同情の次元じゃないんですよね。

●「動物をモノというカテゴリーから離すべき」

――なにを変えればいいか?

やはり、動物を「モノ」というカテゴリーから離すことが重要だと思います。そうすれば、動物の戸籍もつくれたり、ペット税も創設できたりします。あと、虐待をしている人は、自身の所有権を行使できなくなるでしょう。さまざまな問題にぶつかったとき、必ず難点となるのが「動物=モノ」なのです。そして、警察の中にも「動物愛護法ってなんですか?」という人が少なくありません。動物愛護法という特別法でなく、しっかり刑法など、法律全般に入れていくことも重要だと思います。

――ペット業界に対する規制強化の声もあがっている。

「モノ」ではなく「命」として捉えている人間にとって、やはり、一部ペット業界における動物の扱い方は本当に受け入れがたいものがあります。だけど、法律において「モノ」として定義づけられているから、業者の人にとっては、たいして悪いという意識がないんですよね。根本的に「モノ」という意識が見え隠れするんですよ。

●証拠を残さない「虐待事件」が増えている!?

――今回の改正で、一番ゆずれない部分は?

動物虐待の「厳罰化」です。動物虐待がいかに重い犯罪か、ということを決定づける根幹になります。法定刑が引き上げられないかぎり、業者を取り締まろうとしても、限界があります。昨年には、元税理士が、熱湯をかけたり、バーナーであぶるなど、わかっているだけでも13匹もの猫に虐待を加え、殺傷する事件がありました。

編集部注:元税理士は、虐待の様子を撮影して、ネット掲示板に投稿していた。掲示板ユーザーに煽られて、犯行をエスカレートさせていったとされる。東京地裁で、懲役1年10カ月、執行猶予4年の有罪判決が言い渡された)

どんなに残虐であっても、今の法定刑(懲役2年以下または罰金200万円以下)であれば、あの程度の判決になってしまう。ネグレクトのような、積極的ではない虐待も取り締まることが難しいでしょう。だから、厳罰化は絶対です。ネット上のあおりについても、教唆罪がしっかりと適用されていかないと、犯行がエスカレートしていくと思います。

――なぜ、動物虐待をしていると思うか?

良心やモラル、感情が欠如しているのだと思います。痛みや苦しみ、悲しみを共感できる感情を持っていたら、絶対にできない行為だからです。弱者を一方的に虐待することが、一種の快楽になっているのかもしれません。専門家によって、しっかりとしたカウンセリング・治療を受ける必要があると思います。

今後ますます表には出ない動物虐待が増えると思います。動物虐待を趣味とする異常者が集う5ちゃんねる「生き物苦手版」では、捕まるから動画や画像は載せるなといった書き込みがあり、証拠を残さないようになってきています。そこには「これらの書き込みは想像上の作り話」という前提で書き込まれています。しかし、その内容を読むと、こと細かに、どういたぶったかまで書いてあります。あまりにその描写がリアルで、実行したそのものの様子を書いているのだと思います。

――動物虐待をしている人たちに、どう理解してもらう?

理解はもとめていませんが、犯した罪に対して、それなりの償いをさせなければいけないと思っています。法律で、適正に裁かれてほしい。繰り返しになりますが、法定刑の低さが、ああいう虐待事件を助長させているように思います。

●「虐待の厳罰化は、人を守るためでもある」

――動物と人間が共生していくためには?

人間が残酷で愚かな生き物だから、法律やルールが必要になるわけです。本当に、人間が健全な心を持っていたら、そもそもそんな法律はいりません。

同時に、いかに健全な心を育む社会を作れるかだと思います。子どものうちに、何を見て、何を聞いて、それをどう感じ心の奥にとどめることができるか、その子がどういう経験を積み人格を形成するかは周囲の大人にかかっているのです。

動物虐待は、どんどんエスカレートして、今度は動物では飽き足らず、人間にも危害を加えていきます。そこも踏まえて、「虐待の厳罰化は、人を守るためでもある」ということを社会全体が認識して声を上げていかないといけません。

――今後の活動はどうしていく?

なかなか世の中が変わらないことは、承知しています。しかし、やり続けるしかない、言い続けるしかない、と思っています。自分の人生の最後に「どこまで進んだか」ということなのかもしれません。心のどこかでは、劇的に変わることを期待していますが、そうじゃなくても、絶望してはいけないし、あきらめてはいけないと常に自分に言い聞かせています。

私の人生に与えられた使命かもしれません。人間の言葉を持たない動物は、社会の中で一番の弱者。そんな動物たちの存在に救われながら、潤いのある人生・大きな力を与えられていると感じています。本当に素晴らしい存在です。だからこそ、なんとかしないといけないという思いに駆られています。

(弁護士ドットコムニュース・山下真史)

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