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2018年05月05日 08時38分

話せない犬だからこそ、伝わる思い…少年院で「犬の訓練」通じて更生目指す「GMaCプログラム」

話せない犬だからこそ、伝わる思い…少年院で「犬の訓練」通じて更生目指す「GMaCプログラム」
インストラクターの鋒山さんと犬たち(提供:ヒューマニン財団)

千葉県八街市の八街少年院で、入院している少年たちが犬の訓練を通じて、更生を目指すユニークな矯正教育プログラム(GMaC)が行われている。少年たちが受け持つのは、人間に捨てられた犬たち。少年たちは、なかなか思い通りにならない犬たちとコミュニケーションを通じ、周囲との信頼関係や、自分の心のあり方を見つめ直している。(藤井智紗子)

●少年と犬が、1対1のパートナーに

プログラムの名前となっているGMaC(ジーマック)は、「Give Me a Chance」の頭文字を取ったもの。「少年たちに立ち直るチャンスを 飼育放棄された犬たちに生きるチャンスを」の意味を込めている。

プログラムを実施しているのは、人間と動物との共生を掲げる、公益財団法人ヒューマニン財団。少年院の少年が犬を訓練することにより社会貢献を可能とする全国初のプログラムとして、千葉の八街少年院で2014年7月に開始して以来、2018年2月までに8期計25人が修了した。 少年1人と犬1匹でパートナーを組み、1回90分のカリキュラムを週4回、約3か月間にわたって訓練を実施する。米国で最先端の訓練法を学んだドッグトレーニングインストラクターの鋒山佐恵さんが講師として指導にあたる。

「少年たちには、良い家庭犬となるための基本的なしつけをしてもらいます。犬の吠え癖、飛びつきをなくしたり、排泄やお散歩の正しい習慣を教え、またお座りや伏せなどの行動を英語で教えます」

ヒューマニン財団代表理事の寺山智雄さんはこのように説明する。

「1対1ということが、大切なのです。少年は、この犬を自分が担当するんだ、という意識をもつことで、責任感を持ってプログラムに取り組み、犬との信頼関係が生まれます」

●「うまくいかない。でも、それがいい」

ただ、訓練される犬たちも、人間に捨てられるなどの事情を抱えており、家庭で飼いならされた犬のように、指示を素直に聞き入れてくれるわけではないという。

「うまくいかないと、少年たちはいらだったり、焦ったりします。でも、それがいいんです」と寺山さんは語る。

「少年たちは、他人とのコミュニケーションの間に何らかの葛藤があって、非行行為をしたのかもしれません。犬の訓練が思うようにうまくいかないときは、インストラクターが少年たちとコミュニケーションをとりながら、どうすればうまくいくのかを少年自身に考えさせます。

そうするうちに、少年たちの心の中にふっと、気づきや変化が起きます。それは犬たちにも伝わります」

少年たちにはどんな変化が起きるのだろうか。

「思い通りにいかないからといって、相手を傷つけてはいけない、ということを理解します。裏返せば、自分自身を傷つけてはいけない、ということの気づきにもつながります。 犬との訓練が他者のことを考えるきっかけとなり、人間との向き合い方や、自分自身を見つめ直すことができるようになります」

●抱きしめてお別れ

訓練で発生する問題を乗り越えた達成感や、周囲からほめられることも、少年にとって大きな財産だという。

「実際に話を聞いてみると、家庭環境や友人関係などに恵まれていない少年が多いのですが、プログラムを通じて、もう一度自分自身を信じて、これからの将来に向かう勇気をもってほしい」

実際に、少年の成長を感じる場面もあるそうだ。

「プログラムの修了式で、犬と別れる前に抱きしめたり、泣いたりする少年もいるんです。 自分はダメだ、この社会はダメだという、これまでの意識が変わり、自分の過去や周囲の環境を客観的にとらえるようになっていると思います」

このプログラムには、犬と少年だけでなく、地域というプレーヤーも関わってくる。週末、犬たちは一般家庭での生活に慣れるため、地元のボランティアであるサポートファミリーのもとで過ごす。サポートファミリーと少年が直接会うことはないが、犬の様子や成長についての交換日記をすることで、少年と地域住民との交流にもつながる。少年と犬、地域を結びつけるものにもなっている。

●犬だからこそ与えられる「ぬくもり」

様々な矯正教育のやり方がある中で、GMaCプログラムの最大の特徴である、犬を相手にすることの意味はどんなところにあるのか。

「犬だから、としかいえないです」

寺山さんは真剣な表情で続ける。

「もちろん、猫ほど訓練が難しくなかったり、馬ほど飼育が大変でなかったりという事情はありますが、何より大事なことは、動物としてのぬくもりや、においをしっかりと感じ取ることができるということです。

人間は、自身のメンタリティに問題があり、傷を抱えているとき、いくら他の人間が言葉で言っても伝わらない時があります。そういう時に、犬の感触や感覚で、安らぎや安心感を覚えることがあります」

●今後の展望

今後の展望について、寺山さんは、「ぜひ他の少年院や女子少年院、成人向けの刑務所でも実施したい、という声を聞きます。今後は、より一層プログラムを充実させるとともに、訓練を指導できるインストラクターになることのできる人材を育てていきたいです」と見据えている。

少年院に入所する少年は年々減少しているものの、更生して社会に戻るにはまだまだ様々な課題がある。また、殺処分ゼロに向けた取組みが盛んになっているものの、飼育放棄され、最悪の場合処分される犬は後をたたない。

より多くの少年と犬たちがチャンスをつかみ、新たな場所へ羽ばたいていくことを期待したい。

(弁護士ドットコムニュース)

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