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ネコの共食いが起きて「ホッとした」 多頭飼育崩壊の壮絶現場
乳飲み子も含めて24匹の猫が「救出」された

ネコの共食いが起きて「ホッとした」 多頭飼育崩壊の壮絶現場

埼玉県にある一軒家から、このほど計24匹の猫が「救出」された。玄関に足を踏み入れると、猫のフン尿による強烈な悪臭がたちこめ、キャットフードが部屋のいたるところに散乱し、猫の抜け毛も舞いあがる。世話をしきれないほどペットが増えて、劣悪な環境になってしまう「多頭飼育崩壊」だ。この家では、猫同士が「共食い」をすることもあったという。救出の現場に立ち会った。(弁護士ドットコムニュース・山下真史)

●エサをやりはじめた猫が爆発的に増えていった

「きっかけは、子猫を産んだばかりの野良猫にエサをやりはじめたことでした」

この家の主婦、A子さんが振り返る。彼女によると、猫のエサやりをはじめたのは、数年前のことだ。やせ細ったトラ模様のメス猫が、小さな庭の片隅にあるブルーシートの下で数匹の子猫を産んだ。不憫に思って、エサをやっているうちに、猫たちはやがて網戸を破って、家に自由に出入りするようになったという。

はじめのうちは、親子3人で猫をかわいがっていたようだ。A子さんも、子どものころ実家で飼っていた猫と重ねていたという。だが、そうこうするうちに、メス猫のお腹がまた大きくなった。ある日、家のタンスの裏で、メス猫は出産していた。一般的に、メス猫の妊娠期間は約60日、さらに1度の出産で5匹程度産むといわれる。その後、猫は爆発的に増えていった。

●猫の「共食い」を見て、ホッとした

猫を救出したこの日、一家は引越しの当日だった。本来なら食事をつくる台所のシンクや戸棚にも猫のフンが落ち、猫の毛が雪のように降りつもっていた。あまりの不衛生さに、思わず「ここって、もう人は住んでいないですよね?」と聞いてしまったが、そうではなかった。床に撒き散らされた猫の尿が、不快感とともに靴下に染みわたる。

「今から思えば、ちゃんと不妊・去勢をしておけばよかったと思います」(A子さん)

猫の捕獲を手伝いながら、A子さんは後悔を口にした。猫の不妊・去勢手術には、1匹あたり1万2000円〜2万円の費用が必要だ。だが、猫は数え切れないくらい増えてしまっていた。近所は犬を飼っている家が多く、「引き取ってもらえなかった」という。猫を救出したNPO法人「にゃいるどはーと」代表の東江ルミ子さんは「状況から考えて、24匹は少ない。もっといたはず」と話す。

「ある日、生まれたばかりの子猫の頭が床にポロッと落ちていました。びっくりしましたけど、猫も動物だから、子猫を食べると聞きました。そのあと、実際に食べている瞬間も見かけました。もちろん、かわいそうと思いましたが、ホッとしました。私たちが飼い切れないから、代わりに殺してくれたんだって」(A子さん)

頭数が多くて不衛生な環境のもと、ストレスが溜まってしまったのか、猫たちは「共食い」による「間引き」をしていたのだ。近所の人によると、A子さん夫婦について「やさしい性格だ」「あまりご近所付き合いをしていなかった」という。ただ、近所の道路に車にひかれた猫の死骸も見かけたこともあったそうだ。

●一家の食費よりもネコ代はかかっていたが・・・

猫のエサ代とトイレの砂代は、合わせて月6万円くらい。一家の食費よりもかかっていたが、頭数のわりにトイレは2つと少ない。だから、家全体がトイレとなったのだ。A子さんの夫は「猫のことは、家内にすべてまかせていた」「猫が死のうがどうも思わない。手術しようとも思わなかった。動物は共食いをするものだ。どうとも思わない」と強気の口調だったが、立ち去り際に「(猫を飼うのは)もうコリゴリ。二度とゴメンだ」とぼやいた。

実は、一家の引越しには、夫の事業がうまくいかなくなったという背景がある。自宅を売り払うことになり、次のアパートはペット禁止のため、「にゃいるどはーと」に助けをもとめたというわけだ。業者がやってくるまでの約1時間半、放し飼いの猫たちはパニックになって家の中を逃げたが、東江さんたちは一匹一匹、慎重にネットと素手でつかまえて、ケージに入れていった。

●「子どもがかわいがっていた猫を連れていけなかった」

こうした多頭飼育崩壊は、表面化している事例も少なくなくない。NHK「クローズアップ現代+」(2016年11月)によると、多頭飼育について全国で年約1800件の苦情があるという。そして、今回のように、猫たちによる「共食い」まで起きるような、劣悪な環境を強いられてしまうケースも存在する。だが、行政やNPOにも限界はある。

次のアパートでは、屋外でのエサやりも禁止されている。A子さんは最後に「子どもがかわいがっていた猫を連れていけなかった」と涙をこぼした。二度と飼えることはないかもしれないが、もし猫を飼える家に戻ることができたら、やり直したいということか。だが、夫の事業の失敗がなければ、今回の救出にもつながらなかっただろう。それでも、東江さんは「流した涙にウソはないと信じたい」という。

たしかに猫はかわいい。しかし、正しい知識を持たないまま、増やしてしまうと、飼い主の生活も崩壊させてしまう。東江さんは「猫たちの行く末を最後の最後に案じてくれたのは、せめてもの救いだった」と話す。野に放たれるという最悪の事態は避けられたからだ。いったん引き取られた24匹はこのあと避妊・去勢手術を受けて、新しい里親をさがすことになる。

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(弁護士ドットコムニュース)

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