ハロウィンで貼った「タトゥーシール」をはがしたところ、ほおに痕が残ったとして、小学2年生の男児(8)が化粧品会社を相手に、約1430万円の損害賠償を求める裁判を起こしている。
朝日新聞(2月2日)によると、100円ショップで買ったおばけ柄のシールを貼り、2日後にはがしたところ、ほおに500円玉大の茶色い痕が残ったという。皮膚科の診断は「接触皮膚炎」だったそうだ。
なお、ネットではシールを2日後にはがしたことを問題視する声もあるが、「シールの説明書には3~5日程度の利用日数」が記載されていたという報道もある(SANSPO.COM、2月1日)。
裁判では、どんな点がポイントになってくるのだろうか。尾崎博彦弁護士に聞いた。
●製造物責任における「欠陥」をどう捉えるか
――どういう請求だと考えられますか?
「報道から読み取れる限度でコメントします。原告(男児)は化粧品会社に対して、『製造物責任法』を根拠に損害賠償請求したのだと考えられます。
製造物責任法とは、ある製品の欠陥が原因で人の生命・身体・財産に被害が生じたとき、その製品を製造した業者等に対して、損害賠償をすることができる旨を規定した法律です。
報道からは、タトゥーシールを貼ったことが原因として、ほおに痕が残ったと言うことですので、当該シールの『欠陥』に基づいて、身体に被害が生じたと原告は主張するのだと思われます」
――「欠陥」はどうやって証明するのでしょう?
「製造物責任法における『欠陥』は、次のように規定されています。
『当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう』
具体的には製品に『通常有すべき安全性の欠如』があったといえるかどうかを検討することになります」
●レアケースをどう判断する?
――症状は本人の体質にもよると思います。「通常有すべき安全性」はどう考えるのでしょう?
「今回のタトゥーシールは、身体に貼って使用するという前提があることから、ほおに貼って使用することは『通常予見される使用形態』であると考えられます。
もし、皮膚に悪影響を及ぼすのであれば、『使用期限の過ぎた製品を用いた』というような事情でもない限り、『通常有すべき安全性』の欠如があったといえそうです。
ただし、同じ製品を使用していた他の人には、全くそのような障害が生じていない場合などをどう考えるかは難しい問題です」
――報道によると、男児側は「これまでシールで炎症を起こしたこと」がない、会社側も「ほかに健康被害の報告はない」と主張しているようです(朝日新聞、2月2日)。
「ここは私見になりますが、今回の被害が、被害者の、極めて特異な体質に基づくような場合には、当該シールに欠陥があったとするのに躊躇を感じます。
ただし、単に今まで被害事例がなかっただけで『欠陥』がないとすることはできないでしょう。同じような使用状況で他の人に同じ被害が生じる可能性がある場合には、欠陥を否定することはできないと考えます。
また被害事例がなかったことの立証責任は製造者側にあるものと考えます」
●「2日後」には問題がなさそう
――シールを2日後にはがしたという点がネットで話題になっています。
「報道によると、シールの説明書には利用日数として、3~5日程度という期間が記されていたようです。これが事実であれば、2日後にはがすのは問題がない使用方法だったと考えられます。
仮に2日後にはがすというのが、イレギュラーな使い方だったとしても、『本来から外れる形態での使用』がすべて欠陥を否定することにもなるわけではありません。
特に、当該製品が消費者の誤使用を誘発しやすい性質のものであるならば、わずかな消費者の誤使用により『欠陥』を否定されるべきではありませんし、それ自体が『欠陥』と言うべき場合もあるでしょう。
本件のシールでは、イベント限定とはいえ、数日間程度なら貼ったままにすることもあり得るでしょう。そうだとすれば、本件においては『誤使用』や『用法違反』などを強調して当該製品の欠陥を否定することはできないと思われます」
――今回の商品がどうだったかは分かりませんが、企業のリスク回避のため警告表示がある商品もあります。警告表示があれば、企業は免責されるのでしょうか?
「これは大変難しい問題です。裁判例でも、こんにゃくゼリーを幼児に与えて窒息した事案で、十分な警告表示がなされたことなどを理由として、製造物責任を認めませんでした。
しかし、警告表示があれば直ちに製造物責任を免れるとすることはできないと思います。
なぜなら『通常の使用方法』というのは、製品の性質上、通常の消費者ならそのような使用方法をするであろうという見地から判断されるべきであって、警告表示で決まるものでもないからです。
その想定の範囲内での使用であれば、製造者側の警告の有無のみで直ちに欠陥が是正されるとみるべきではありません」