日本でも人気の大手コーヒーチェーン「スターバックス」。その香港中心部にある店舗で、コーヒーをいれる水をトイレ内の蛇口からくんでいたいう衝撃の事実が、香港メディア「蘋果日報」などの報道でこのほど判明し、日本でも波紋を広げている。
各社報道によると、問題の店舗は香港のビジネス街セントラル地区の「中国銀行タワー」にある。この店には水道設備がないため、ビル駐車場にあるトイレ内の蛇口から水道水をくんで店まで運び、開店以来それを使用していた。この蛇口には「Starbucks Only」と書かれ、洗面所からは独立しているものの、男性用小便器から1メートルほどしか離れていないという。
スターバックス香港は地元紙の取材に対し「飲料可能な水道水で衛生状態は保たれており、ろ過もしていた」と主張したようだが、当局の警告を受けてこの水道の使用をやめた模様だ。
何とも驚きの"事件"といえる。もし日本のカフェなどの飲食店が同じようにトイレの蛇口からくんだ水でコーヒーを提供したら、何らかの法律に反するのだろうか。大本康志弁護士に話を聞いた。
●日本でカフェを開くには「食品衛生法上の許可」が必要
「まず、大前提として、日本においては、店舗においてコーヒーなどの飲料物を提供する場合、食品衛生法上の許可を得る必要があります。その許可を得るためには、水道水を供給できる水道設備が必要です(同法51条、東京都条例3条別表第二、第一の3(ー)参照)。
したがって、日本の店舗型コーヒー店では、今回香港で行われた事例のように、店舗外の蛇口から水が運ばれるということ自体が通常は考えられません」
――では、移動販売ではどうか?
「話が別ですね。移動式屋台などでコーヒーを売る場合、今回の香港のケースと同じようなことが日本で行われたらどうか、検討してみましょう。
食品を取扱う施設で使う水については、食品衛生法上の規制やガイドラインがあります。具体的には、下記のような点が問題となり得ます。
(1)コーヒーに利用される水自体が、もともと飲料可とされているものであるかどうか
(2)その水をポリタンクなどで運搬する際に、衛生的な手続(ポリタンクの除菌、連携するホースの管理、貯水タンクの整備など)を踏んでいるか
(3)水を実際に使用するまで、衛生的に管理・保存されているか(温度や保存期間など)
上記(1)と(3)については、『問題ない』といえる余地があるかもしれません」
――(2)については?
「現地の状況について、公開されている動画などで見るとわかりますが、注水作業や運搬作業をする間に、『異物などが混入するリスクがありうる』と言わざるをえません。
蛇口は、男子用小便器という極めて汚物等が離散されやすい設備から、1メートル程度しか離れていない。そこにコーヒー店専用の蛇口が設置されているということ自体、そもそも(2)の衛生的手続を行っているとは言いがたいですね。
つまりは、日本の無店舗型コーヒー店(販売所)で、香港と同じようなことが発覚した場合、保健所が事実を確認し、指導することになるでしょう」
――スターバックス香港は、当局の警告を受けて『トイレ内蛇口』の利用をやめたようだが・・・・。
「日本の視点をあてはめれば当然です。ミネラルウォーターを使う手もありますが、コストがかさみますから、今後は店舗外から注水するシステムを構築する以外ないでしょうね。衛生面での安全性は飲食店に不可欠なものですから、万全の措置をとって信頼を回復してほしいです」
日本では「許されない」——ある意味、当然の結論にほっとした。そもそも日本でおおっぴらにそんなことをしていれば、法律の前に消費者が許してはおかないだろうが・・・・。