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プロ野球選手は職場を選べない、厳しい移籍制限「現役ドラフト」への期待
プロ野球選手会事務局長の森さん

プロ野球選手は職場を選べない、厳しい移籍制限「現役ドラフト」への期待

開幕して1カ月あまりのプロ野球。厳しいシーズン中も選手は球界活性化のために意見を出し合っている。労働組合「日本プロ野球選手会」としての活動だ。個人事業主ではあるものの、労働組合法上はプロ野球選手も「労働者」とされる。

選手会は年2回、シーズンが中断する夏のオールスター期間とオフに大会を開催。各球団の選手会長らを通じて選手たちの意見を吸い上げ、議論している。

今シーズンは開幕前の3月26日に「選手会ビジョン2019」を発表した。現役ドラフトの創設やFA権の期間短縮を通した「移籍の活発化」などを提言したものだ。オフの議論をベースに、選手会事務局(非選手)が各球団キャンプをまわって調整していた。

選手会ビジョン2019

選手が球界に対して、どのような改革を望んでいるのか。元阪神の外野手で選手会事務局長の森忠仁さんに話を聞いた。

●「職場」を選べないプロ野球選手

プロ野球選手はドラフトで指名されて入団する。「逆指名」制度がなくなって久しく、「職場」を選ぶ権利はない。自発的に選べるとすれば、FA宣言したときくらいだ。

「入り口は選べないし、入ってからもなかなかチームを選べない。どっちかはと思っているんです」

森さんは移籍の活発化について、このように話す。しかし、選手が球団を自由に選べれば、資金力のある球団の一強になってしまう恐れがある。

「選手会としても『戦力均衡』は大切だと思っています。その前提で『自由な競争』とのバランスを適正化すべきだと考えています」

●移籍制限は独禁法違反?

提言の背景には、公正取引委員会が2018年2月に公表した報告書の存在もある。労働分野への独占禁止法の適用について検討したものだ。

具体的には、芸能人やスポーツ選手の過度な移籍制限についても、独禁法違反になる恐れがあると指摘している。公表以来、スポーツ界でもラグビーや陸上で移籍制限の見直しが起きた。

プロ野球も移籍があるとすれば、FAかその人的補償、トレード、自由契約くらいと選択肢が限られている。あとは海外ポスティング(入札)くらいだ。選手会としても、注目度が高いうちに問題提起したいという思いがあるようだ。

●FAのハードルを下げる

では、選手会はどういう変更を求めているのか。1つは期間を短縮するなどして、FA権の取得ハードルを下げることだ。

チームによっては同じポジションに有力なレギュラーがいて、実力があっても1軍の出場機会に恵まれない選手もいる。そんな選手は他球団に移れば、年俸が大きく変わる可能性だってある。

選手会のFA改革案

「現状では、一定の球団しかFA補強ができていない状況があります。また、一部の選手しかFA権を行使できず、偏りがあるとも思います。もっとFA市場に選手が出た方が補強しやすく、戦力の均衡に良いと思います」

FAで有力選手(球団内年俸がA・Bランクの場合)が抜けたチームは、補強のために相手チームから別の選手を獲得する。いわゆる「人的補償」だが、選手会は金銭補償と合わせ、補償制度の廃止も求めている。

ランクと補償

「人的補償があるため、FA宣言しづらくなっている側面があります。ただ、移籍の選択肢が少ない現状では、人的補償が出場機会の少ない選手の『希望』として機能している部分もあります。なので、移籍の活発化と撤廃をセットでやる必要があります」

「補償制度があると、球団が細かく年俸を操作することでFAを使いづらくさせることができます。たとえば、Cランクだと補償がありませんが、年俸を調整して数万円差でBランクにすれば、補償が発生するのでFA移籍が難しくなります」

また、FA権を取得するには一定期間、1軍に「出場選手登録」されている必要がある。それゆえ、優勝争いに絡んでいなければ、取得を遅らせるため、登録期間がコントロールされる恐れがある。

たとえば、先発投手の駒が揃っていれば、1度投げたら登録を抹消し、登板間隔を空けるといった操作もありえるわけだ。

ただし、選手会としてもFA移籍が活発化さえすれば良いとは考えていないようだ。

「メジャーリーグ(MLB)のように、FA宣言しても契約がまとまらないとなっても困る。そこのバランスは考えていく必要があります」

●「飼い殺し防止」の現役ドラフト

FA制度の是正に加えて、選手会はMLBや韓国プロ野球で導入されている「現役ドラフト」の創設も求めている。

入団後、一定期間がたった選手のうち、登録日数が少ない若手や2軍生活が増えたベテランを対象に改めてドラフトにかける制度だ。

「首脳陣との関係やチーム事情で、なかなか1軍に上がれない選手もいます。指導者との相性もあるだろうし、自分と似たような選手がチームにいることもあるでしょう」

森事務局長

巨人や阪神のような人気球団だと、プレッシャーに押しつぶされてしまうこともあるかもしれない。能力はあっても、不振が数シーズン続くと戦力外になってしまうかもしれないのがプロの世界だ。

「選手や球団の編成担当から『あいつ他のチームなら…』という話はよく聞きます。環境が変われば、活躍できる選手はかなりいる。ただ、そういう選手ほど、他のチームで本領発揮されると困るので『飼い殺し』になるリスクがあります」

そこで「使わなければ、指名するよ」という現役ドラフトが飼い殺しの防止として機能しうるわけだ。仮に試合に出られなくても、1軍に登録されていれば、FA権を取れるチャンスがある。

選手が適材適所でチームを移動すれば、ファンにとってもよりレベルの高い試合を観られる可能性が高まることになる。

●安心してプロを目指せる環境を

「選手会ビジョン2019」ではこのほか、野球の普及活動や育成環境の整備にも力を入れることが謳われている。近年の野球人口の減少を意識してのものだ。

「昔は夕方にテレビをつければ野球中継をやっていたし、どこでもキャッチボールができました。しかし、今はスポーツが多様化しています。野球は人数を揃えないといけない難しさもあります。いろんなアプローチしていかないといけないと考えています」

森事務局長

同様に引退後の選手のセカンドキャリアの充実も目指す。

「安心してプロを目指せる環境をつくって、野球の裾野を広げたい。裾野が広がれば、全体のレベルも高くなります。普及・育成、移籍の自由化、引退後の安心ーー。野球界の好循環をつくっていきたいです」

(弁護士ドットコムニュース)

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