過酷な労働のために「躁うつ病」を発症して退職したところ、会社から約1200万円の損害賠償を求める訴訟を起こされて精神的苦痛を受けたとして、IT企業で働いていた20代男性が、会社を相手取って、損害賠償を求めた裁判の判決が3月30日、横浜地裁であった。横浜地裁は、会社側の請求をすべて棄却。男性に対して110万円を支払うよう命じた。
男性の代理人をつとめた嶋崎量弁護士によると、男性は2014年4月にIT企業「プロシード」(神奈川県)に入社。劣悪な職場環境のもとで、精神疾患(躁うつ病)を発症し、同年12月に退職した。
ところが、男性は、会社から「ウソの病気で、会社を欺いて一方的に退社した」として、約1200万円の損害賠償を求める訴訟を起こされた。この提訴によって、症状が悪化するなど、精神的苦痛を受けたとして、反対に損害賠償を求めて提訴していた。
判決を受けて、男性は代理人を通じて「この判決で、裁判を提起した会社の法的責任を認めてくれて、本当に嬉しいです。この判決を契機に、不当訴訟を起こす会社、私のような苦しい思いをする方がいなくなれば、なお嬉しいです」とコメントした。
プロシードは、弁護士ドットコムニュースの取材に「担当者が不在だ」としている。
●嶋崎弁護士「ブラック企業を返り討ちにした点に意義がある」
男性の代理人をつとめた嶋崎弁護士のコメントは以下の通り。
「退職後の労働者への不当訴訟を理由に損害賠償請求が認容されたケースは数件しか先例もなく、画期的な判決だ。ブラック企業を返り討ちにした点に意義がある。
近年、退職後の労働者に対して、法的な根拠を欠くのに、不当な損害賠償請求を提起するケースが増えている。この判決は、会社の請求が何ら法的根拠を欠くことを明言するだけでなく、こういった訴訟提起をすること自体で不法行為に基づく損害賠償の支払を命じられることになることを示しており、意義がある。
退職後の労働者への損害賠償請求は、労働者を萎縮させ、「辞めたいのに辞められない」被害を生む要因となる。この判決は、頻発するほかの不当請求に対しても大きな警告となることを期待する」