クロネコヤマトで知られる宅配便最大手「ヤマト運輸」が、社員約7万人を対象に、未払いの残業代の有無を調べ、支給すべき未払い分が確認できれば、すべて支払う方針だと報じられている。
一方で、ツイッター上では、ある従業員とみられる人物の「(うちのセンターは)組織の見えない圧力によって1円も貰いませんという誓約書的なものを全員書かされました」といったLINEの会話を写した画像が出回っている。
ネット上では、ほかの企業でも入社時などに「残業代を請求しない」という内容の誓約書にサインさせられたといった相談があがっている。はたして、こんな誓約書に法的な効力はあるのだろうか。労働問題にくわしい光永享央弁護士に聞いた。
●誓約書の効力が否定される可能性が高い
「結論からいうと、裁判ではこのような誓約書の効力は否定される可能性がきわめて高いでしょう」
光永弁護士はこのように述べる。どうしてそうなるのだろうか。
「労働者が『残業代はもらいません』という趣旨の誓約書を書いた場合、法的には、残業代という賃金債権を放棄する意思表示と評価されます。
判例は、当事者間の合意にかかわらず適用される『賃金全額払原則』(労基法24条)の趣旨に鑑み、残業代の放棄が自由な意思に基づき、かつ、客観的合理的理由が存在することが認められて、初めてその効力を認めるとの立場を採用しています。
裁判実務上、この審査はかなり厳格におこなわれています。通常、労働者が残業代を不要とする客観的合理的な理由などは考えられません。会社に無理やり書かされただけとみるのが経験則に合致しますので、よほどのことがないかぎり、自由意思に基づくものとみることもできないでしょう」
誓約書にサインをさせられても、残業代を取り戻すことはできるのか。
「たとえ誓約書にサインしたとしても、気にせず、裁判すれば、残業代を支払わせることができるでしょう。
実際、私が担当したケースでも、会社側からそのような書面が証拠として提出されたことがありますが、余裕で撃退しました。
会社がサインをするまで会議室から出さなかったり、不利益処分をちらつかせたり、虚偽説明をしたりして、サインさせたような場合は、より一層、誓約書の効力を否定しやすくなります。そのやりとりを録音しておくとよいでしょう」