ブラック企業問題に取り組むNPOや弁護士らでつくる「ブラック企業対策プロジェクト」が3月27日、東京・道玄坂で、就活中の学生や大学関係者らに向けた就活セミナーを開催した。NPO法人POSSEの今野晴貴代表、嶋崎量弁護士、法政大学キャリアデザイン学部の上西充子教授が講演した。
上西教授は「内定はゴールじゃない。働き続けられる職場を見つけて、そこで働き始めるということを当面の目標にしてほしい」と語り、学生らに向け、「職場実態」に目を向けるよう呼びかけた。
●「就職四季報」が今年からパワーアップ
上西教授は職場実態がわかる指標として、「離職率」と「平均勤続年数」をあげる。労働環境がよければ必然的に人が会社に留まるし、悪ければ辞めていくからだ。業界の平均と比較することで、志望企業の労働環境の程度が推測できる。
しかし、これらのデータはあまり公表されていない上、労働環境を尋ねるのはタブーという「就活の鉄則」があるため、学生が企業に聞くことは難しい。
そこで、上西教授がすすめるのは、市販されている「就職四季報」の活用だ。この本では、東洋経済新報社が主要企業を中心に5000社をアンケート調査し、3年後離職率や平均勤続年数、従業員数と採用者数の比率などのデータをまとめている。
「リクナビ、マイナビはわかりやすいけど、実は何も語っていない。就職四季報は広告ではないので、都合の悪い質問に企業は回答する義務はない。でも、NA(ノーアンサー)とあったときは、『答えたくない何かがあるんだろうな』ということ」
上西教授が「就職四季報」をすすめる理由はほかにもある。
「今年から巻末に初任給の内訳が出るようになったんです」
近年問題になっている「求人詐欺」では、求人票に記載している給与額にあらかじめ残業代が組み込まれていたり、手当が事実上の残業代になっていたりと、金額が不正に水増しされていることが多い。給与の内訳がわかれば、より正確に労働条件の比較ができる。
「ただし、内訳は約6割(の企業)しか出していない。残りの4割は『嫌だよ』ということ。書いてある情報を見るのも大切ですが、なんで回答しなかったのかなということも大切」
●企業に情報開示を義務付ける「若者雇用促進法」
上西教授が活用をすすめるものがもう1つある。それが昨年制定されたばかりの「若者雇用促進法」だ。
この法律では、企業が就活生に対し、幅広い職場情報を提供することを努力義務としている。また、就活生などから求めがあれば、企業は一定以上の情報を開示しなくてはならない。必ずしも希望の情報が提供されるとは限らないが、どういう反応があるかも、企業を選ぶ上での材料になりえる。
本人が情報を請求するのは心理的に難しいだろうが、請求はハローワークや大学のキャリアセンターでもできるという。
「大学に来た求人について、キャリアセンターが求めれば、学生の名前を明かさずに企業から義務で情報を得ることができる。職員さんの頑張りしだい。大きな武器ができたんです」
ただ、根本的な問題は、企業が十分に情報を公開しない上、労働環境を気にする学生は採用しないという雰囲気がまかり通っているところだ。
「『企業に待遇を聞くな』というのは、『どこもある程度は違法だよね』という諦めに似た認識もあると思う。それが常識になってしまい、底が抜けているというのが現状。『積極的に情報を出していく企業のほうがまともだ』という流れを作っていきたい」
と上西教授は述べていた。