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生保レディが「枕営業」 顧客と性的関係をもったら、どんな法的問題に発展する?
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生保レディが「枕営業」 顧客と性的関係をもったら、どんな法的問題に発展する?

「ノルマもあるし、契約をとればボーナスも出るから、客と寝ることもあるよ」。女子会ランチで、あっけらかんとした様子で告白する生命保険営業職の友人に、アキコさん(30代)は言葉を失ったという。

告白した友人は中部地方在住で、夫と2人の子どもと暮らしている。「営業先では相手の家族のことや悩みなど突っ込んだ話もするし、何度か聞いているうちに、ご飯に誘われたりして、それでなんとなく・・・」と語ったそうだ。

これはごく特殊なケースだと考えられるが、「枕営業」をすることは、結果的に会社の名誉を損なうことにつながる恐れがないだろうか。もし、発覚した場合、枕営業をした社員が、なんらかの処分を受けることはありうるのか。吉成安友弁護士に話を聞いた。

●顧客との性的関係はどんな問題がある?

「『枕営業』といっても、さまざまなケースがあると思います。アキコさんの友人のケースは、顧客の悩みを聞いたりしているうちに、ご飯に行ったりのプライベートな関係ができた。そして『なんとなく』ということなので、一般的なイメージでの『枕営業』とは異なるかもしれません」

顧客と性的関係をもつことは、問題ないのだろうか?

「一般的なイメージでの『枕営業』に当たるかどうかは別としても、顧客と性的関係を持つことが、会社の信用に関わってくることはありえます。

そして、労働者の私生活上の行為であっても、『会社の社会的評価に影響を及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合』(最判昭和49年3月15日)などには、懲戒処分の対象となると考えられます」

●どんな処分が妥当なのか?

具体的には、どのような「懲戒処分」が妥当なのだろうか。

「労働者はプライベートでは本来自由な立場ですので、社会的に非難されるよう行為であっても、企業の信用等に対する重大な侵害が生じるような場合でなければ、処分は不適当だといえます。

また、懲戒処分にも、譴責(けんせき)、戒告、減給、降格、解雇など、さまざまなものがありますが、侵害の重大性に見合ったものでなければなりません。

たとえば、生命レディのケースではありませんが、タクシーのドライバーが、たまたま乗客となった既婚女性と2カ月にわたり性的関係を続けたことなどを理由に解雇され、その無効を求めて訴えた裁判例があります」

その裁判では、どのような判決が出たのだろうか。

「裁判所は『第一線で顧客に接する運転手である原告が、たまたま乗客として乗り合わせた女性客、しかも有夫の女性と、これを機に交際情交関係を持つことは、単に原告の個人的問題にとどまらず、被告の信用を失墜させ、ひいてはその企業経営を危殆に瀕せしめるものであつて、会社及び従業員の体面を汚すものといわなければならない』としつつ、『原告の所為は同女の夫及びその親族に宥恕されて公にならずその終息を見たことから、具体的に被告の信用を失墜させたものとは言い難い』などとして、解雇を無効としています」

裁判所は結局、タクシードライバー側の主張を認めたわけだ。

「このように、解雇などの重い処分については、信用を失墜させるような行為を行ったかどうかだけなく、実際に信用を失墜させたかどうかが、処分の有効性に関わってきます。

生保レディが顧客と性的関係を持つことについても、態様等によっては会社の信用を失墜させるような場合もあるでしょう。しかし、具体的に信用の失墜が生じていないのであれば、いきなり解雇などは適切ではなく、まずは譴責、戒告等が相当でしょう。

また、会社側が、どれだけ厳しいノルマを課しているか、どれだけプレッシャーをかけているかなどの事情も、処分の有効性に影響してくるかと思います」

吉成弁護士はこのように話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

吉成 安友
吉成 安友(よしなり やすとも)弁護士 MYパートナーズ法律事務所
東京弁護士会会員。企業法務全般から、医療過誤、知財、離婚、相続、刑事弁護、消費者問題、交通事故、行政訴訟、労働問題等幅広く取り扱う。特に交渉、訴訟案件を得意とする。

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