国民民主党の玉木雄一郎代表が、ヤフーニュースに対して、名誉毀損のおそれがある記事について「配信すべきか否か十分な検討と配慮」を求めて、波紋を広げている。
玉木代表はXで、インターネット上の発信について「拡散性・残存性を考慮すると権利侵害の度合いが甚大である」と主張。
そのうえで、名誉毀損の疑義のある記事については、「一時非表示にするなど速やかな対応」を求めた。
この投稿には賛同する声がある一方、「政治家が言論封殺につながりかねないことを言っていいのか」と疑問視する声も上がっている。
名誉毀損の疑いがある記事について「一時的な非表示」を求めることは、「表現の自由」や「国民の知る権利」を不当に制限することにならないのだろうか。憲法にくわしい猪野亨弁護士に聞いた。
●問題となった記事は「表現の自由として最大限保障されるべき」
今回問題となった記事は、国会議員や政党の資質に関するものであり、民主主義の観点からも、表現の自由として最大限保障されるべき内容です。
表現の自由は、国民の知る権利がその前提にあると理解されています。マスメディアによる報道や論評も、民主主義を支える重要な役割を担っています。
ニュース配信サイトは、その情報を広く届ける役割を果たしています。ヤフーニュースのような配信サイトを通じて記事が掲載されることで、多くの人が情報に触れるきっかけになります。
●「一定の事情あれば」配信サイトも責任を負うことがある
一方で、国会議員であってもプライバシー権や人格権は保護されます。また、事実に基づかない報道や論評によって、政党や政治家の評価を不当に下げられることは許されません。
インターネットは、一度配信されると情報が急速に拡散し、その後も長く残ります。そのため、誤った情報であっても真実だと受け止められてしまう危険があります。
玉木代表は、こうした特徴を踏まえ、名誉毀損などの疑いがある記事について、要請があればニュース配信サイトが確認を終えるまで一時的に非表示にするよう配慮を求めたものと考えられます。
ここでいう「一時的」とは、配信サイト側が、記事の内容や要請の妥当性を確認するまでの間を指すものと思われます。
●玉木代表の要請は「発禁ではない」
今回の要請は、「発禁」といえるような性質のものではありません。
対象となるのは、出版社などの発信元のサイトではなくニュース配信サイトです。そのため、元の記事が削除されるわけではなく、読もうと思えば発信元のサイトで読めます。
また、「一時的な非表示」にとどめている点からも、玉木代表としては表現の自由への制約をできるだけ小さくしようという配慮があったものと思われます。
要請という形で、ニュース配信サイトの自主的な対応を促すこと自体が直ちに問題となるわけではありません。内容によっては、被害の拡大を防ぐために迅速な対応が必要となる場合もあります。
その意味では、申し入れそのものまで否定されるものではなく、その手段として一時的な非表示を求めることも考えられます。
●「影響ないとはいえない」
もっとも、政治家がこうした自主的な対応を求める場合、それが事実上の圧力にならないのかという問題はあります。
実際、過去には自民党議員の勉強会で、沖縄の新聞社について政権に批判的だとして不買運動を促すような発言がありました。
議員からの発言であっても、報道機関が相当な圧力を感じるのは当然であり、政権批判を萎縮させる効果を生むおそれがあります。
ニュース配信サイトについても、同様の問題は生じ得ます。
もっとも、ニュース配信サイトは閲覧数など事業上の判断も伴うため、政治家からの要請が現場の運用にどのような影響を与えるのかは、一概にはいえません。
しかし、少なくとも、まったく影響がないとはいえないでしょう。
●要請の当否は「総合的に判断されるべき」
本来、有権者が政党や政治家を支持するかどうかを判断するためには、知る権利が十分に保障されていなければなりません。
もちろん、政治家が道理に基づいて申し入れをすること自体はあり得ます。しかし、それを超えて圧力と受け取られるような態様であれば問題があります。政治家は一般の私人とは異なる影響力を持っているからです。
その影響力の大きさは政治家によって異なりますが、一般的には与党議員のほうがより大きいといえるでしょう。
一時的な非表示が適切だったのか、また政治家による要請が妥当だったのかは、それぞれの事情を踏まえて総合的に判断されるべき問題です。
そして、その要請自体もまた、有権者が政党や政治家を評価する際の一つの材料になります。
いずれにせよ、国家が強制力を用いて記事を排除するものではありません。最終的には、有権者がさまざまな事情を踏まえて判断すべき問題だと考えます。