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2015年07月12日 10時32分

高度プロフェッショナル労働制の導入で「365日働かされるかも」と弁護士が指摘

高度プロフェッショナル労働制の導入で「365日働かされるかも」と弁護士が指摘
指宿昭一弁護士

安保法案の審議で国会が大きく揺れているが、労働者の働き方に関わる重要法案にも注目が集まっている。一定の年収以上の専門職について、労働時間の規制を外す「高度プロフェッショナル労働制」などを盛り込んだ労働基準法改正案も、審議入りが模索されている。

もしも労働基準法改正案が成立した場合、働き方はどのように変わるのか。また、派遣法改正、労基法改正と、働く上でのルール改正を次々と押し進めようとする政府の狙いは何なのか。労働組合で長く活動し、「労働者側専門の弁護士」として、不当解雇や残業代不払いなどの問題に取り組む指宿昭一弁護士に聞いた。

●「24時間365日働かせてもいいことになる」

――労働基準法改正案が成立した場合、働く人にどんな影響を与えるのでしょうか。

一番大きな影響を与えるのは「高度プロフェッショナル労働制」だと思います。これは、年収1075万円以上の専門職に対して、労働時間や休日・深夜の割増賃金などの規定を撤廃する制度です。条件に適合した人については、労働時間に全く規制がかからなくなります。つまり、理屈の上では、24時間365日働かせてもいいことになるのです。

私のところに労働相談に来た人で、印刷関係の会社で店長をしていた人がいます。彼は365日全く休みなく働いて、自宅に帰ったのが1日だけ。帰ったといっても、ちょっと寄る程度で、自宅で寝ることもできない状態が続いていました。しかも、それだけ働いても、残業代は1円も支払われていませんでした。まさに、高度プロフェッショナル労働制を先取りするような働き方です。

過酷な労働を続けて発作的に自殺未遂をしてしまったのですが、運良く救命され、その後、労災が認定され、会社に賠償や賃金支払いを求めて交渉しています。もし、高度プロフェッショナル労働制が成立した場合、彼のような働き方が合法的にできるようになってしまいます。

―― 一部では、「年収が1075万円もある人は、残業代をもらわなくてもいいよね」「年収が低い自分には関係ない」という見方をする人もいるようです。

いくら高い年収をもらっていても、人間が健康に生きていくためには、働く時間だけではなく、趣味などを楽しむプライベートな生活時間と睡眠時間、休日が必要なはずです。そういう時間が全くない状態で働かされれば、過労死や過労自殺、過労うつの問題が必ず生じると思います。

ひたすら働かされれば、政治や社会に関心を向けて意見を発信する時間も気力もなくなるでしょう。政府にとっては、政治に口出しをしない、都合のいい労働者かもしれませんが。

「自分は年収が低いから関係ない」と考えるのも早計です。実際に制度がスタートすれば、年収要件はどんどん下がると思います。年収要件は、法律改正により大きく引き下げることも可能ですし、若干の引き下げなら厚生労働大臣が変えることも可能です。現に経団連は「適用範囲を広げてくれ」と主張しています。まさに「小さく産んで大きく育てる」。政府側がそう考えているのは、ほぼ間違いないでしょう。

たとえば派遣法は、1986年の施行当時、対象業務を13業務に限定していましたが、1999年の改正で原則自由化されました。派遣会社のピンハネや派遣切りなど悪質な行為が目立つようになると一時的に規制が強化されたものの、2012年の政権交代を経て、派遣労働の全面自由化ともいえる法改正案が衆議院を通過し、参議院で審議入りしています。

●「日本の労働者はお上に逆らえない」

――派遣法改正も労基法改正も、労働者にとっては不利な方向に突き進んでいるようにも思えますが、政府や経団連の狙いはいったい何なのでしょうか。

単純に、企業の人件費を減らしたいということもあるでしょうが、労働者を思うがままに使って、文句を言わせない、権利も主張させない、切りたいときにはいつでも切れるようにしたいということなのでしょう。彼らは、労働者の権利を守る法律が憎くて憎くて仕方がないのだと思います。

安倍首相は、第二次安倍内閣ができてからすぐに開かれた2014年1月のダボス会議で、「岩盤規制を打ち破るドリルの刃になる」「いかなる既得権益も私のドリルからは無傷でいられない」と発言しました。彼が言う既得権益とは、労働者や社会的弱者の権利のことです。

要するに、労働者の権利を守る規制を破壊して、企業の利益を優先したいわけです。2013年2月の施政方針演説では「世界で一番、企業が活躍しやすい国を作る」とも言いました。国民ではなく、企業が活躍しやすい国。それが安倍首相の国家観なのでしょうが、非常に危険な考え方だと思います。

――政府の動きに対して、どうするのが良いと考えていますか。

改正案の成立を阻止するため、たとえば、先ほどの365日働いていた店長のような当事者に、記者会見などで実情を訴えてもらい、この法律によってどんな過酷な労働環境になるのか、自分には関係ないと考えている人たちにも想像してもらう必要があると思います。ただ、当事者は、なかなか表に出たがらない人が多いですね。

そもそも、日本人は労働者としての権利意識が低いんです。労働基準法などの知識がないということも問題ですが、労働者の権利を上司や会社、ひいては国に主張するのは悪いことだ、という感覚があります。お上に逆らえないがために、過酷な労働をした結果倒れても、会社や上司のやり方が間違っているとは思えず、「倒れて出社できず、会社に申し訳ない」と悩んでしまう。

政府や経団連は、そういう真面目で素直な労働者につけ込んでいるんです。日本の労働者は、もっと権利を主張し、雇用と生活と命を守るために声をあげるべきです。

(弁護士ドットコムニュース)

指宿 昭一弁護士
労働組合活動に長く関わり、労働事件(労働者側)と入管事件を専門的に取り扱っている。日本労働弁護団常任幹事。外国人技能実習生問題弁護士連絡会共同代表。
所在エリア:
  1. 東京
  2. 新宿
事務所名:暁法律事務所
事務所URL:http://www.ak-law.org/
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