外食大手「コロワイド」が運営する居酒屋チェーン「北海道」で、複数のアルバイト店員の勤務時間を改ざんする不正が見つかった。
報道によると、改ざんが判明したのは、東京都新宿区の1店舗。ある店員の月の勤務時間が多くなると、別の店員のタイムカードを使わせ、記録上、1人あたりの月の勤務時間が「120時間以内」になるようにしていた。給与は店員間で金をやり取りさせることで、正規の額になるよう調整していたという。
なぜ、こんなことをしたのか。コロワイドの発表によると、アルバイト店員の勤務時間が増えたことで「社会保険」の加入要件を満たすことになったが、店長の判断で不適正な処理を行い、社会保険に加入させなかったのだという。
企業が、従業員を社会保険に加入させないことを「社保逃れ」と呼ぶ。企業はなぜこうした手法をとるのだろうか。また「社保逃れ」をした企業にペナルティは生じないのだろうか。労働問題にくわしい今泉義竜弁護士に聞いた。
●保険料の負担を嫌がる企業が「社保逃れ」に走る
そもそも「社保逃れ」とは、どういった行為を指すのだろうか。
「ここで問題となっている『社会保険』というのは、具体的には健康保険と厚生年金保険です。
所定の労働時間・労働日が、正社員の4分の3以上の労働者については、企業は健康保険と厚生年金保険に加入させた上で、保険料の半分を負担しなければなりません。
これは、企業に課されている義務です。労働者が『アルバイト』であろうが『パート』であろうが、関係ありません。
この負担を節約するために、勤務時間を改ざんし、実際より少なく申告して、結果として企業がその分の保険料を払わずに済ませようするのが『社保逃れ』です」
●「社保逃れ」事業者には制裁がある
具体的に、「社保逃れ」は労働者にどんな影響があるのだろうか。
「会社で健康保険に入らない場合、自分で国民健康保険の手続きをして保険料を支払わなければなりません。そうしないと無保険状態となり、病院も満足にかかれなくなってしまいます。
また、会社の健康保険では、病気で働けなくなったときに、給料の3分の2相当にあたる金額が最大で1年半保障される制度がありますが、国民健康保険ではそのような保障は通常ありません。
さらに、厚生年金保険に加入しない場合は、国民年金保険料を自分で納めることになりますが、将来受け取れる年金額は、厚生年金保険に加入している場合に比べて、大幅に減ることになります」
「社保逃れ」は法律で規制されているのだろうか。
「社保逃れは、健康保険法や厚生年金保険法に違反します。違反した事業主には、6月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます」
今泉弁護士は「国や自治体が『社保逃れ』をするブラック企業をきちんと取り締まり、メディアもそうした企業を今回のように公表し、強力な社会的制裁を加えていく必要があるでしょう」と指摘していた。