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「必ず契約書を交わして」ライターらが自衛策学ぶ フリーランス法施行から約1年半、業界慣習に未だ遅れ
フリーランスが取引先とのトラブル防止について学んだ勉強会

「必ず契約書を交わして」ライターらが自衛策学ぶ フリーランス法施行から約1年半、業界慣習に未だ遅れ

書籍制作の請負契約を一方的に解除されたとして、フリーランスの編集者の男性が、出版社の宝島社を相手取り、約380万円の損害賠償を求めた訴訟。3月に東京高裁が原告男性の訴えを棄却し、判決は確定した。

この判決から、取引先とのトラブル防止策を学ぶ勉強会が4月27日、都内で開かれた。下請法とフリーランス法に詳しい、青山学院大学法学部の岡田直己教授が判決内容を解説し「必ず取引先から契約書交付を受けてほしい。契約書を交付しない企業との取引は避けるべきです」と呼びかけた。(ライター・田中瑠衣子)

●マンガ解説本の制作途中で契約解除 

勉強会は、フリーのライターや編集者らでつくる労働組合「出版ネッツ」が開いた。

裁判の原告はフリーランスの書籍編集者の男性。判決文などによると、男性は2021年5月に宝島社の編集者から、NHK番組「100分de名著 カール・マルクス『資本論』」のテキストをベースにした、マンガ解説本の制作業務を打診された。

男性は、シナリオライターや作画家などに業務を発注し、制作を進めた。しかし2021年7月、宝島社は番組テキストの著者の要望に沿っていないなどと、シナリオ案の修正を求めた。求めに応じ、男性はシナリオ案を作り直していたが、同年9月に宝島社から契約を解除された。

男性は2023年11月、宝島社が追加の報酬提案なしに、一方的にシナリオの作り直しを指示し契約を解除したことは、下請法に違反し不法行為にあたるとして、未払いの報酬や作画家らへの外注費用、慰謝料など計約380万円の支払いを求めて東京地裁に提訴した。

裁判の主な争点は次の2点だった。

①宝島社が男性に発注した業務の範囲
②作り直しの指示や契約解除が不法行為に当たるか

2025年9月の地裁判決は、男性が書籍制作の業務一式を受注したことを認めた。しかし、制作過程では、著者側の要望に沿っていない面があったなどと「下請け事業者の責めに帰すべき理由がないとまでは認めがたい」と、男性の請求を棄却した。

男性は控訴したが、2026年3月、東京高裁も訴えを棄却した。高裁の判決は原告にとって地裁より厳しい内容になった。地裁は男性が「書籍制作の業務一式を受注した」と認めた。しかし、高裁は男性が受注したのは、マンガパートの編集のみで「業務の一部しか受注していない」と範囲を絞り、報酬相当額は支払い済みとした。

裁判では上記の論点で争われたが、そもそも宝島社は男性に契約書を交付していなかったという問題がある。

この日の勉強会で、原告代理人の本間耕三弁護士は「下請法では、発注の際に契約書面の発行を義務付けているのに、宝島社は契約書面を発行していなかった。裁判所は不交付の事実をあまりに軽く見ている。契約書がない中で不利益を被るのは、力関係が弱い下請けの方です。その構造を軽視していることが問題だと思う」と振り返った。

今後については「裁判所が書籍制作やフリーランスについて理解しておらず、フリーランスの実態を伝え続けることも大事な取り組みになる」とまとめた。

●「契約書を交付しない企業との取引は避けるべき」

今回の裁判の教訓として、岡田教授は2つのポイントを挙げた。

1つ目は必ず契約書の交付を受けることだ。今回、宝島社は男性に契約書を交付していなかった。契約書を交わしていれば、裁判所は契約書に書かれている内容を基に、どんな取引が行われたかを認定していくため、結果が変わった可能性もある。

画像タイトル フリーランスが取引先とのトラブル防止について学んだ勉強会

岡田教授はこう話す。

「フリーランス法、下請法ともに発注書面や契約書の交付が基本中の基本として定められています。フリーランスの皆さんは『発注書がほしい』とリクエストすると煙たがられるのではと心配かもしれません。ですが、今回の原告の方のような問題が自身に起きたら、想定を超える不利益を被ることになります。必ず契約書の交付を受けてください。契約書を交付しない企業との取引は避けるべきです」

2つ目は、発注を取り消された場合の対応だ。

契約書交付を受けていることが前提になるが、フリーランス側に落ち度があるなど例外的な状況を除き、発注取消があった場合、発注者はそれまでにかかった費用の全部、あるいは大部分を負担しなければならない。フリーランス法を理解したうえで、泣き寝入りせず、取引先に請求することだ。

●フリーランス209万人 発注業者への指導、勧告445件

総務省の調査によると、2022年10月時点で本業をフリーランスとしている人は209万人で、全有業率の3.1%。専門的な技能を生かせることや、自分の生活に合わせ働く時間を選べることが、本業としてフリーランスを選んだ理由になっている。

新しい働き方として広がっているフリーランスを保護するため、2024年11月に取引企業に書面などでの取引条件の明示や、報酬の支払い期日を義務付ける「フリーランス法」が施行された。

法律の施行後、発注書や契約書交付の動きは広がっているものの、十分とは言えない。公正取引委員会はフリーランス法に違反して取引条件を明示しなかったり、報酬の支払い期日を守らなかったりする事業者に対し、行為の是正や再発防止を求めて勧告や指導を行っている。新聞各社の報道によると、2025年9月時点で公取委が発注業者に出した指導と勧告は計445件に上る。

取引条件が明示されないケースは、出版を含む文化・芸術業界で目立つ。2025年6月には、出版大手の小学館と光文社がフリーランスのライターらに取引条件を明示しなかったなどとして、勧告を受けた。

ただし、岡田教授は「公取委が指導や勧告をしたからといって、その事実が不法行為を成立させ、損害賠償請求が認められるとは限らない」と指摘する。冒頭の宝島社とフリー編集者の裁判でも、公取委が2023年に宝島社に対し、取引条件の明示がない(契約書の不交付)、不当なやり直しといった下請法違反の恐れがあるとして、同社を指導していた。

「公取委の行政処分を武器にして、自らの不利益を回復する、損害賠償請求すると裁判で争っても勝つことは難しい。とにかくまず契約書の交付を受けること、それにつきます」

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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