今年の夏も、猛暑が人を苦しめている。消防庁によると、今年6月に熱中症で救急搬送された人の数は4634人で、昨年と比べて10%増となっている。また、熱中症とされ、病院に到着したときに死亡していたケースが、5月19日~7月20日の間に17件もあったという。
熱中症対策には、こまめな水分補給や、エアコン・扇風機などを用いた室温調整、適度な休憩などが有効とされている。しかし、仕事中だと、そうもいっていられないのが現実だ。屋外・高温下での作業はもとより、屋内でも、暑さを感じながら作業せざるをえない場合がある。
仕事中の熱中症を防ぐための対策が求められるが、企業には、従業員の熱中症を防ぐ「法的義務」があるのだろうか。睡眠不足など、本人の体調管理が悪かったようなケースはどうだろうか。中村新弁護士に聞いた。
●企業には「安全配慮義務」がある
「企業(使用者)は、労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務を負います(労働契約法5条)。
これは労働契約にともなう『安全配慮義務』といい、従業員の熱中症を防ぐことも、この安全配慮義務に含まれます」
使用者は、どんな対策をとらなければならないのだろうか?
「屋内作業の場合、適切な室温管理を行っていれば、企業の義務違反が問われることはまずないでしょう。
一方で、夏季に屋外作業に従事させる場合には、熱中症防止のため、周到な配慮をすることが求められます」
●休憩時間や休憩所の確保などが求められる
「具体的には、次のような措置を取ることが望ましいでしょう。
(1)いきなり屋外でフルタイム稼働させるのではなく、暑さに慣れるための慣らし期間(順化期間)を設ける。
(2)休憩時間・休憩所をきちんと確保する。
(3)猛暑日など酷暑の際には、屋外で連続して稼働する時間を極力短縮する。
(4)労働者が水分補給や塩分補給をを適切に行っているか、現場監督などに巡視・確認させる。
(5)体調管理に留意するよう各労働者を指導する」
一方で、労働者自身が寝不足だったり、体調管理が悪かった場合は、その人の自己責任なのではないか?
「労働者の体調管理が悪かったことも、熱中症になった一因だと立証された場合には、使用者側の安全配慮義務違反に基づく損害賠償の額が、過失相殺により減額される可能性があります。
また、もっぱら労働者自身の体調管理の不備が、熱中症になった原因だという場合には、企業の賠償責任そのものが否定されるでしょう・・・しかし、現実には、体調管理の不備のみで熱中症を発症したと認定されることは、なかなかないと思われます」
中村弁護士はこのように話していた。従業員の労働環境を安全なものにする義務は、企業がしっかり負っているようだ。