労働者の労災が国に認定された場合、事業主に認定の取り消しを求める権利があるかが争われた訴訟の上告審で、最高裁第1小法廷(堺徹裁判長)は7月4日、事業主は取消訴訟を提起できないとする初めての判断を示した。
一審・東京地裁は、事業主には訴える資格(原告適格)がないと判断したが、二審・東京高裁は原告適格を認めて、審理を地裁に差し戻していた。最高裁は、二審判決を破棄して、国側が逆転勝訴した。
裁判では、一般財団法人「あんしん財団」が、女性職員の労災認定の取り消しを求めていた。最高裁判決を受けて、職員側の弁護団は記者会見を開いて「当たり前の判断だ」と喜びを口にした。
弁護団によると、女性職員は2015年に精神疾患で休職すると、労災認定されて、約8年間にわたって保険支給を受けてきたという。もしも支給決定が覆れば、多額の返還を求められるおそれも考えられるところだった。
弁護団の嶋﨑量弁護士によると、判決の知らせを聞いた職員は「返さないといけないのであれば生きてはいけなかった。少し安心した」と話したという。
東京高裁の判決では、メリット制(労災認定を受けた労働者への保険給付の額によって、事業者が納める保険料の額が増減する制度)の適用を受ける事業主は、労災の支給決定によって、納付すべき保険料が増額するおそれがあるから、事業主の利益が侵害されるとして、「原告適格を有する」と判断されていた。
弁護団の山岡遥平弁護士は「被災労働者や過労死事件の遺族を守ることにつながる判決」と評価しながらも、メリット制のあり方についても今後争っていきたいとした。