コンビニのセルフコーヒーでレギュラー(R)サイズを購入しながら、それよりも高額な商品、ラージ(L)サイズやカフェラテなどをカップに注ぐ行為について、逮捕や懲戒免職された事件が報じられている。
過去の報道を調べたところ、1回の行為で罰せられるケースは見当たらず、その行為を故意に繰り返した場合に、窃盗罪で警察に逮捕されたり、勤務先から懲戒免職処分を受けたりしているようだ。
今年1月には、兵庫県の市立中学校の校長が懲戒免職処分とされ、退職金も支払われなかった。
セルフコーヒーの「窃盗」によって、公務員が最も重い懲戒免職処分とされることは「厳しい」と指摘する声もある。この処分をどのように評価すればよいのだろうか。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)
●不起訴ではあるが、処分は「懲戒免職」だった
セルフコーヒーの「窃盗」をめぐって、公務員が懲戒免職処分を受けたのは、少なくとも2例が確認できる。
2021年2月には、熊本市が役所の非常勤職員を懲戒免職処分とした。2024年1月には、兵庫県教育委員会が市立中学校の校長を懲戒免職処分としている。
いずれも行為を複数回繰り返し、本人は警察や自治体に「故意」の行為だったと認めている。ただ、検察は不起訴処分とした。
SNSでは、上記の2つのケースが報じられると、被害金額が数百円ということで、懲戒免職は厳しすぎるのではないかとする意見も相次いだ。
弁護士ドットコムニュースが熊本市人事課に取材(当時)したところ、職員への懲戒処分は「熊本市の懲戒処分の指針」にもとづき判断され、公務外の「窃盗・強盗」については、「他人の財物を窃取した職員は、免職又は停職とする。」との規定があり、これを踏まえて懲戒免職とされたようだ。
セルフコーヒーの「窃盗」に対して懲戒免職とする処分は厳しいのだろうか。公務員の労働問題にくわしい岡田俊宏弁護士に聞いた。
●懲戒免職は適法だったと言えるのか
——熊本市の非常勤職員のケースで、セルフコーヒーの窃盗に対する処分として懲戒免職は妥当なのでしょうか。
懲戒権者(熊本市)には、懲戒処分をするかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択するかについて、一定の裁量があると考えられています。
しかし、場合によっては、その判断が裁量権の逸脱・濫用として違法となることもありえます。
「熊本市の懲戒処分の指針」では、公務外の窃盗は「免職又は停職」とされており、今回の処分はこの基準内におさまっています。
とはいえ、この処分がただちに適法ということにもなりません。仮に男性が審査請求や訴訟で処分を争った場合、基準の範囲内であっても、「重すぎる」といった理由で処分が取り消されることもありえます。
今回、懲戒権者は、この職員が、複数回にわたって窃盗という犯罪行為に及んでいたことの悪質性を重視して、最も重い懲戒免職処分を選択したと推測されます。
もちろん、故意の犯罪行為を繰り返していたわけなので、被害金額が少額だからといって、決して軽微な犯罪とはいえないと思います。コンビニ店のオーナーから見れば、許しがたい行為でしょう。
しかし、懲戒免職処分は、公務員にとっては死刑判決に等しい極めて重い処分ですし、「熊本市指針」でも「停職」を選択する余地はあるのですから、懲戒権者としては、諸事情を踏まえて「懲戒免職処分もやむ無し」といえるだけの事情があるか否かを、慎重に検討すべきだろうと思います。
——事情を踏まえれば、判断はどうあるべきと考えられるでしょうか。
今回の事案の詳細はわかりませんが、懲戒免職された元職員のインタビューを読むと、犯行時は非常勤職員であり、特に重い職責を担っていたわけではありません。また、被害金額は数百円〜数千円程度です。
店側には被害金額以上の金銭を支払ったうえで示談が成立しており、当時うつ病の症状がひどかったことも影響している可能性があります。そのうえ、明確に犯罪だという認識がなかったことなど、職員側に酌むべき事情もみられます。
仮に、懲戒権者が、上記のような事情を十分に考慮せずに安易に懲戒免職処分を選択したとすれば、その処分は裁量権の逸脱・濫用として違法と判断される可能性もあるように思います。
もちろん、前科・前歴や懲戒歴の有無、日頃の勤務態度、反省の有無、熊本市の同種事案における過去の処分例など、その他の事情にもよります。
●必ずしも「懲戒免職処分=退職金不支給」ではない…支給制限を取り消した判決も
——兵庫県の市立中学校の校長は、懲戒免職処分だけでなく退職金も不支給とされています。この点はどのように考えますか。
細かな事情がわからないので何とも言えませんが、中学校の校長という職責ある公務員の非違行為です。窃盗行為の発覚による生徒への影響など社会的な影響も大きいといえるので、熊本市職員のケースと比べると、懲戒免職処分を争うのは難しい面があると思います。
ただし、仮に懲戒免職処分が適法であるとしても、ただちに退職金(退職手当)の全額不支給まで適法ということにはなりません。通常、懲戒免職処分がなされると、退職手当支給制限処分(全額不支給処分)も併せてなされますが、両者は別個の行政処分です。
したがって、被処分者(校長)としては、両方の処分を争うことも、退職手当支給制限処分のみを争うことも可能です。
懲戒免職処分は適法としつつも、退職手当支給制限処分は違法であるとして、後者のみを取り消している過去の裁判例もあります。
退職手当支給制限処分も、行政側には一定の裁量が認められています。
しかし、退職手当には、勤続報償としての性格のみならず、賃金後払いや退職後の生活保障としての性格もあるのですから、今回発覚した窃盗行為だけで、退職手当を全額不支給としてしまうことは、個人的には重すぎる処分のように思います。
ただし、近時の最高裁判決は、県立高校の教諭が酒気帯び運転で物損事故を起こしたケースについて、退職手当全額不支給処分を適法と判断していますので、その点は注意が必要です。