発達障害なのに、適切な合理的配慮を受けられず、うつ病で休職したことなどで、雇い止めされたとして、外資系のIT企業「セールスフォース・ドットコム」の日本法人(東京・千代田区)で働いていた40代女性が7月20日、同社を相手取り、地位確認や慰謝料440万円などをもとめる訴訟を東京地裁に起こした。
女性側は、裁判を通して、合理的配慮についての理解を進めたいとする考えだ。
●40代目前で「ASD・ADHD」と診断され、初めて障害者として働き始めた
訴状などによれば、女性は発達障害の一種「ASD(自閉スペクトラム症)」と「ADHD(注意欠陥多動症候群)」の混合と診断されている。2018年11月、障害者枠で、契約社員として入社し、主にウェブマーケティングの業務に従事した。
入社後、特性に応じた合理的配慮をもとめたものの、直属の上司からは「面倒を見るのは本当は私の役割じゃない」などとして、応じてもらえないことが続いたという。
女性には「口頭指示では理解できないことがある」などの特性がある。会社からもとめられて、そのような特性や必要な配慮(メールなど文字に残るものでの指示など)の説明を入社時、入社後に提出してきたという。
しかし、上司に要請しても守られず、業務内容が明示されないまま働いたことで、混乱を引き起こし、精神的苦痛を受け続けたと主張する。
このような事態の改善を求めて、会社やジョブコーチと面談したが、女性のもとめる状態にはならず、2019年4月には、社内で過呼吸発作を起こすこともあったとした。発達障害の二次障害であるうつ病となり、休職に至ったとされる。
また、体調が回復してきたため、復職を希望したが、今度は退職勧奨を受け、2020年11月 での雇い止めを受けたと主張している。
●同じ発達障害の子どものためにも訴訟をおこした
障害者雇用促進法にもとづき、雇用分野の合理的配慮の提供は、民間企業であっても、過重な負担でない限り、事業主の法的義務と定められている。
原告代理人で、発達障害の当事者でもある伊藤克之弁護士は「合理的配慮の提供について、特に上司からなされず、差別的発言もあった。そして、それをフォローする会社の体制も十分ではなかった」と話す。
ながらく自身に発達障害の疑いがあると考えていた女性は、入社以前、子どもの診断をすすめられたことをきっかけに、一緒に検査を受けたところ、母子ともに発達障害と診断されたと話す。
「会社とは、就労環境の改善と、復職に向けて対話をもとめてきました。権利のために戦うことが誰かのために役立つと思います。発達障害をもつ子どもの道の開拓にもつながると確信しています。
企業には合理的配慮への誤解があまりに多く、訴訟することで声をあげ、問題と向き合おうと決心しました」
●セールスフォースは
セールスフォース社は編集部の取材に「訴状が届いていないのでコメントできかねます」と回答した。