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2020年10月01日 10時03分

「田中さんの孫がコロナに」 社内の感染者情報、全国に流す会社の法的問題

「田中さんの孫がコロナに」 社内の感染者情報、全国に流す会社の法的問題
画像はイメージです(Fast&Slow / PIXTA)

新型コロナウイルスの感染拡大にともない、職場で感染者が出たという人も多いかもしれません。弁護士ドットコムには、社内で感染者に関する情報が大々的に発表されたことに違和感をもったという相談が寄せられています。

相談者は、全国に支店を展開している会社で働いています。その1つの支社でコロナの感染者が出ました。すると、朝礼で上司が「●●支社の田中さんのお孫さんがコロナにかかりました」と伝えたというのです。

支社と名前だけとは言え、相談者は「皆の前で言って良いものなんでしょうか。400kmも離れている支社の情報がそこまで重要なのでしょうか」と疑問に感じたようです。

はたして、感染者やその家族の情報を全社に流すのは、法的に問題ないのだろうか。櫻町 直樹弁護士に聞いた。

●新型コロナウイルス感染は「要配慮個人情報」

ーー新型コロナウイルスに感染したという情報は、個人情報にあたりますか。

まず、「個人情報の保護に関する法律」との関係でみると、新型コロナウイルス感染症に感染した、検査で「陽性」と判定されたといった情報は、同法2条3項に定める「要配慮個人情報」に該当すると言えます。

会社が、「個人情報取扱事業者」にあたる場合、「個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的をできる限り特定しなければ」ならず(同法15条1項)、「あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない」(同法16条1項)とされています。

したがって、会社が、取得した感染などの情報の公表を予定している場合には、「利用目的」を明らかにしておく必要があります。

ただし、「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」(同法16条3項2号)に該当する場合は、例外的に、利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱うことができます。

仮に、感染などの情報の取得時には公表を予定していなかったが、取得後、目的外利用である公表の必要性が生じた場合、例外事由に該当すれば、感染などの情報を公表することは法に抵触しません。

●従業員の感染情報を社内公表、本人同意なしでも認められる

ーー従業員が新型コロナウイルスに感染したという情報を社内公表する場合は、どう考えられますか。

個人情報保護委員会は「新型コロナウイルス感染症の拡大防止を目的とした個人データの取扱いについて」(2020年5月15日公表)で、「社員に新型コロナウイルス感染者と濃厚接触者が出た。社内公表する場合の注意点は何か」という問いに対し、以下のように回答しています。

「同一事業者内での個人データの提供は『第三者提供』に該当しないため、社内で個人データを共有する場合には、本人の同意は必要ありません。また、仮にそれが当初特定した利用目的の範囲を超えていたとしても、当該事業者内での2次感染防止や事業活動の継続のために必要がある場合には、本人の同意を得る必要はありません」

以上のとおり、個人情報の保護に関する法律との関係においては、従業員本人の感染などの情報を自社内で公表することは、仮に、本人の同意がない場合であっても、本人の同意を必要としない例外に該当するものとして認められる、と考えることができるでしょう。

一方で、従業員の家族に関する感染などの情報については、例外に該当するとは言い難い、あるいは、該当するか否か微妙な場合もあると思われることから、家族本人の同意を得て行うべきでしょう。

●公表の必要性や相当性があるか?

ーー感染者の社員や家族の情報を全社に流すことは、プライバシー侵害にならないのでしょうか。

感染などの情報を公表することの法的な問題に関しては、個人情報の保護に関する法律との関係だけでなく、プライバシー侵害の成否についても考える必要があります。

新型コロナウイルス感染症の感染者に対して、残念なことではありますが偏見等に基づくいわれのない誹謗中傷や差別が現実に生じています。

こうした状況からすれば、感染などの情報は、一般人の感覚からして「他人に知られたくない、公開を欲しない情報」であり、本人の同意なく公開することは、「プライバシー侵害」にあたる可能性があります。

過去には、公立高校教員の病気休暇取得を、学校のウェブサイト等に掲載して公表したという事案において、損害賠償を認めた裁判例があります(佐賀地裁平成31年4月26日判決・労経速2383号20頁)。

裁判所は「個人の健康状態、心身の状況、病歴等に関する情報は、通常は他人に知られたくない情報である。したがって、本人の同意を得ることなく、これをみだりに公表することは許されない」とした上で、精神的苦痛に対する慰謝料10万円を認めました。

したがって、感染などの情報を公表するにあたっては、プライバシー侵害という事態を回避するため、本人の同意を得ておこなうべきといえます。

ーー今回のケースは、従業員ではなく、その家族の感染情報だったようです。

相談例においては、「●●支社の田中さんのお孫さんがコロナにかかりました」と朝礼で発表されたということですが、本人の同意を得ずにおこなったのであれば、プライバシー侵害にあたるといえるでしょう。これが、田中さん自身が感染したということであっても同様です。

なお、本人の同意を得ずに公表した場合であっても、公表の必要性・相当性等が認められるときには、公表することの利益がプライバシーとして保護される利益に優越し、プライバシー侵害は成立しない、と判断されることがあります。

しかしながら、相談例の場合は、400キロ離れた遠方の支社でのことですから、在籍する従業員の感染であれその家族の感染であれ、朝礼で発表がなされた支社において感染が拡大する可能性はなく、個人が特定され得る形で公表する必要性は認められません。

したがってプライバシー侵害が成立する、ということになるでしょう。

取材協力弁護士

櫻町 直樹弁護士
石川県金沢市出身。企業法務から一般民事事件まで幅広い分野・領域の事件を手がける。力を入れている分野は、ネット上の紛争解決(誹謗中傷、プライバシーを侵害する記事の削除、投稿者の特定)。

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