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なぜ「家政婦」は労基法の対象外なのか? 国を相手に、前例のない裁判始まる
会見に参加した、亡くなった女性の夫(2020年3月5日、東京都、弁護士ドットコム撮影)

なぜ「家政婦」は労基法の対象外なのか? 国を相手に、前例のない裁判始まる

家政婦はなぜ労働基準法の適用対象外なのかーー。東京都で家政婦と訪問介護ヘルパーとして働いていた女性(当時68歳)が亡くなったのは長時間労働が原因だとして、女性の夫が3月5日、国を相手に労災認定を求めて東京地裁に提訴した。

住み込みの家政婦など「家事使用人」については、労働基準法が適用されない。そのため、労災を請求したものの、遺族補償給付を支給しないという判断がされていた。

提訴後、東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開いた女性の夫は、「国は、高齢者の介護を仕事としていた亡き妻に、労働者ではないと決定を下しました。人間としての扱いをしてもらいたいと思います」と訴えた。

●6日間ほぼ休みなく勤務

訴状によると、女性は2013年8月、要介護高齢者向けの居宅介護支援サービスや家事代行サービスを展開する都内の企業に入社。家政婦として勤務し、2015年5月からは訪問介護ヘルパーの仕事もおこなった。

女性は2015年5月20〜26日までの6日間、家政婦と訪問介護ヘルパーとして、認知症で寝たきりの要介護者のいる家庭に勤務。24時間ほぼ休みなく勤務したといい、27日夜、私的に訪れたサウナで倒れ救急搬送されたが、急性心筋梗塞のため亡くなった。

夫は2017年5月、渋谷労働基準監督署に労災を申請。労基署は女性は労働基準法第116条2項の「家事使用人」に該当するため、労災の適用除外になるとして、労災の不支給決定をした。その後の審査請求、再審査請求も退けられた。

●争点は?

争点は、女性が労働基準法上の「家事使用人」に該当するのかという点だ。

そもそも「家事使用人」とは、どういう人をさすのか。労働基準法第116条2項は「この法律は、同居の親族のみを使用する事業および家事使用人については、適用しない」と定めている。

さらに、厚生労働省の通達(1988年3月14日)は「個人家庭における家事を事業として請け負う者に雇われて、指揮命令のもとに行うものは家事使用人に該当しない」と定めている。

つまり、全ての家政婦が「家事使用人」になるわけではなく、雇用され指揮命令を受けている場合は労働基準法の適用対象となる。

では、女性の場合、どのように考えられるのか。

代理人の明石順平弁護士は「女性の勤めていた会社は、介護をかねた家政婦を派遣し、2つが一体となったサービスを提供しており、個人家庭における家事を事業として請け負う者と言える」と話す。

介護業務だけでなく、家政婦業についても業務指示書の別紙で指示されており、「指揮監督を受けていたと言え、雇われて指揮命令のもとに行う者に該当する」と主張。女性は「家事使用人」には該当しないとしている。

また、女性の長時間労働は、労災認定基準の「短時間の過重業務」にあたり、既往症がないことから、過労によって亡くなったと主張している。

●労基法の適用外「時代遅れ」

「家事使用人に労災保険制度や労働基準法が適用されないのは、時代遅れで不十分。保護されない状況が、許されていいわけがない」。代理人の指宿昭一弁護士は、現状の制度を批判する。

訴状では、仮に、女性が会社ではなく家庭に直接雇用されていたと認定されたとしても、そもそも労基法第116条2項は憲法違反だと主張している。

「かつては、家庭の中に『女中』が住み込んで働いていて家族扱いだった。ところが、現代は、紹介所と称する会社に雇用されて労働者として各家庭に働きにいっている。この実態に対して、労基法などを適用しないのは、憲法上から見ても明らかに間違っている」(指宿弁護士)

代理人によると、家事使用人の労働者性をあらそう裁判は「前例がない」という。明石弁護士は「国は家事使用人に関する統計なども取っておらず、なんの保護もない。今回のようなケースを放置していると、同じように犠牲になる方が出てくる」と懸念を示した。

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