岐阜県の公立高校教員、西村祐二さんと公立中学校の教員だった夫を過労で亡くした工藤祥子さんが10月28日、「一年単位の変形労働時間制」の導入撤回を求める署名3万3155筆と「給特法」の改正を求める署名3万8850筆(いずれも10月26日時点)を要望書とともに萩生田光一文部科学大臣に提出した。署名は衆参両院議長にも提出する。
対応した文科省の藤原誠事務次官は、教員の働き方について「特効薬のない総力戦」とし、「教員が過重労働のもとに倒れるのはあってはならない。総合的ないろんな取り組みが必要」などと話したという。
提出後、文部科学省で会見を開いた西村さんは「1日8時間労働の原則を目指すべき。それこそが働き方改革だ。私たち教員は労働者ではないんでしょうか」と訴えた。
●西村さん「日本の公教育が崩壊する分岐点」
公立学校の教員に導入が検討されている「一年単位の変形労働時間制」は、忙しい時期の定時を延ばして、夏休みなど閑散期は勤務時間を短くし、教員がまとまった休みを取れるようにするというもの。今国会で、公立学校の教員にも適用できるようにする法案が審議される。
「日本の公教育が崩壊する分岐点であることを、現場にいる教員が感じている」。西村さんは今回現役教員の立場から発言するに至った経緯を語った。
「教員は一人の人間であり、聖職者でも神でもない。こうした働き方を強いられたら、死んでしまう。それでも進めるのか。教育界を目指す若者もいなくなっていき、公教育の質がもはや保障できなくなる」
西村さんは「一年単位の変形労働時間制」導入により「1時間の休めない休憩時間を含め、1日10時間も11時間もノンストップ労働が余儀なくされる」と指摘。
「給特法が重なることで残業にも規制がかからず、エンドレスで残業がある。教員がエンドレス労働を余儀なくされる時代がやってくる」と訴えた。
●内田准教授「8月も残業している」
工藤さんは12年前に当時40歳だった夫を亡くしたが、公務災害として認定されるまで5年半もの月日がかかった。しかし、その後も教育長などからお悔やみの言葉は何もなく、「今でも夫は無駄死にしたのではないかというつらい感覚が残っている」という。 工藤さん
もし変形労働時間制が適用され、教員が長時間労働を余儀なくされた場合、責任者は誰になるのか。「教育長が(夫の死の)責任を認めなかったような事態になることを懸念している」と法案の撤回を求めた。
名古屋大学大学院の内田良准教授は、2018年度の石川県公立小中高校の教員の残業時間を示した上で、「8月も残業しており、閑散期ではない。残業がなくならないなら一年単位の変形労働時間制は入れられない」と指摘。 内田准教授
2018年に策定された「部活動ガイドライン」も形骸化している実態があるといい、「自治体にどう規制をかけて行くか。今回問われている」と話した。
●嶋崎弁護士「悪用に使われる」
署名の呼びかけ賛同人でもある嶋崎量弁護士は「一年単位の変形労働時間制が導入されても、長時間労働が抑制されることはない。労働時間を見せかけだけ短くする悪用に使われるだろう」と危険性を指摘。 嶋崎弁護士
国は導入理由について「休日のまとめ取りを推進するため」としているが、「休日のまとめ取り自体は悪いことではないが、変形労働時間制を入れなくてもできる。なぜ変形労働時間制なのか」と疑問を呈した。
また、「一年単位の変形労働時間制」は、民間企業であれば労使協定がなければ導入できない制度であり、「中教審の答申段階では、学校の場合どうするのかが議論されていない。教育現場の時代を逆行させかねない」と話した。