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疎遠だった父親が自殺、部屋は「事故物件」に…子どもが突きつけられた残酷な現実
写真はイメージです(jessie / PIXTA)

疎遠だった父親が自殺、部屋は「事故物件」に…子どもが突きつけられた残酷な現実

離れて暮らしていた父親が5カ月前に自殺し、物件の賃貸人(貸し主)から損害賠償を請求されたという男性が、弁護士ドットコムに相談を寄せています。

相談者は両親の離婚後、母親に引き取られ、父親とは約8年間会っていませんでした。そんな中、突然届いた訃報。

悲しみに浸る暇もなく、父親が住んでいた物件の賃貸人から「自殺した後の掃除代」と「事故物件」になってしまったことによる「一年分の家賃の損害賠償」を請求されました。

相談者は「父の遺産は何ももらっていません。お金だけ払うのはおかしくないですか?」と納得いかない様子です。

父親が自殺した後始末のためのお金を、子どもが支払う必要があるのでしょうか。小川弘恵弁護士の解説をお届けします。

●「相続放棄」をすれば、損害賠償金を支払う必要はない

ーー相談者は賃貸人に、「亡くなった父親の子ども(である相談者)が掃除代と損害賠償を支払う義務がある」と言われたそうです。このような場合、かならず子どもが支払わなければならないのでしょうか。

今回のようなケースでは「相続放棄」(受け継ぐべき遺産の全てを放棄すること)をおこなうことで、損害賠償金を支払う必要がなくなります。

注意したいのは、相続放棄をおこなう期間が「自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内」ということです(民法915条1項本文)。この3カ月間を「熟慮期間」といいます。

熟慮期間の起算点である「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、「相続人が相続開始の原因たる事実の発生を知り、かつ、そのために自己が相続人となった事実を知った時」を指します。

今回のケースでいうと、相談者は、父親の死亡後5カ月が経過した時点で、父親の死亡を知り、かつ相談者自身が相続人であることを認識したようです。相続放棄の熟慮期間は、この「知った」時点から起算する事になります。

したがって、相談者の相続放棄の熟慮期間はまだ経過していません。相談者が父親の死亡を知ってから3カ月以内に家庭裁判所で決められた手続きをすることで、相続放棄をおこなうことができます。相続放棄の手続きが終了すれば、相談者は賃貸人が主張する損害賠償金を支払う必要はありません。

●相続放棄をおこなわなかった場合はどうなる?

ーーもし、熟慮期間内に相続放棄の手続きをおこなわなかった場合はどうなるのでしょうか。

そのような場合や、熟慮期間内に相続財産を処分したような場合、その相続人は、プラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産を含めて、一切の権利義務を全て相続することを承認したとみなされます(「単純承認」:民法921条)。

仮に、今回の相談者が父親の死亡を知ってから3カ月以内に相続放棄の手続きをおこなわなかった場合、賃貸人が請求している掃除代や損害賠償金の額が妥当なものである限り、これらの父親のマイナスの財産を相続したことになります。

そのため、相談者は支払いをしなければなりません。

●「事故物件」を理由とした損害賠償は認められる?

ーー今回のように、自殺によって借りていた物件が「事故物件」になってしまった場合、賃貸人からの損害賠償請求は認められるのでしょうか。

過去の裁判例では、賃貸住宅で自殺があったことは、心理的に嫌悪すべき事由(いわゆる「心理的瑕疵」)であり、賃借人の自殺は、賃貸住宅に心理的瑕疵を生じさせないようにする義務(いわゆる「善管注意義務」)などを怠ったために発生したとして、賃借人の損害賠償債務を承継した相続人に対し、賃貸人からの損害賠償請求を認めています。

損害賠償請求の内容としては、自殺があったことにより賃料が得られなかったことへの損害(賃料の逸失利益)と、自殺によって原状回復のために支出せざるをえなかった費用などです。

賃料の逸失利益の金額の算出方法については、裁判例では事案により様々な判断がなされています。逸失期間についても概ね1年半から4年程度とされ、2年目以降は減額していく方向で判断されていることが多いようです。

また、原状回復費用については、自殺によって特別の損傷・汚損が生じた場合の費用や、自殺によって特別におこなう必要が生じた行為のための費用などが認められています。

(弁護士ドットコムライフ)

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プロフィール

小川 弘恵
小川 弘恵(おがわ ひろえ)弁護士 弁護士法人みお綜合法律事務所
学生の頃より「旅行が好き」「人の喜ぶ顔を見るのが好き」という理由で、旅行会社に就職したが、困っている人の役に立ちたいと一念発起し、弁護士に。いつでも気軽に相談できる「親しみやすさ」と「頼りがい」を兼ね備えた弁護士であることをモットーに、離婚・相続・企業法務などの事件を多く取り扱っている。

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