弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 離婚・男女問題
  3. 「ボロボロになっても結婚生活を続けたい」妻の借金、暴言 40代夫がそれでも離婚しない理由とは
「ボロボロになっても結婚生活を続けたい」妻の借金、暴言 40代夫がそれでも離婚しない理由とは
インタビューに答える富岡さん(2022年9月、弁護士ドットコムニュース)

「ボロボロになっても結婚生活を続けたい」妻の借金、暴言 40代夫がそれでも離婚しない理由とは

独身時代なら友人間で気軽に交わした恋愛話も、いざ既婚者になると「お互いに色々あるはずだ」と察して、口を挟まなくなるもの。この「色々ある」夫婦関係の実態は、最近ではSNSで吐露、暴露されている。それを読んで共感や応援する意味で「いいね」を押すこともあるが、「なぜ離婚しないの?」という疑問が湧き上がることも多い。

ジャーナリストの富岡悠希さん(40代)が自身の過酷な結婚生活をまとめた『妻が怖くて仕方ない』(ポプラ新書)には、そんな「なぜ離婚しないの?」と聞きたくなるエピソードが満載だ。

妻の800万円もの借金を返してあげたのに、喧嘩すれば「あんたのことはもう、人として認めていない」となじられ、「ただいま」「おかえり」といった挨拶ですら返事をしてもらえないーー。

複数人の証言ではなく、いずれも富岡さん自身の結婚生活で起きている出来事である。しかし富岡さんは「ボロボロになっても結婚生活を続けたい。もう少しあがいていきたい」との覚悟をもつ。夫婦間に何があったのか。そして何より、富岡さんはなぜ離婚しないのか。

●出口の見えない「4つの沼」

本書で「夫婦関係は破綻の瀬戸際をさまよっている」と記した富岡さん。現在、夫妻が直面する問題を「4つの沼」と表現する。

「1つはお金のこと、2つ目が教育、3つ目が心身のDV、4つ目がコミュニケーション不全になり、妻からシカトされている。富岡家はこの4つの沼の中にある」

ここまで暗転するまでに何があったのか。まずは2人の出会いからさかのぼりたい。約12年前、2人が出会ったのは東京・赤坂で開いた合コンで、富岡さんの一目惚れだった。

「あまり期待せずに行ったところ、彼女が来て。松田聖子さんがその昔、ビビビ婚というのをされたのと同じように、彼女をみた瞬間、電気が走りました。その後、猛アタックして交際が始まりました」

ホテルでのドラマティックなプロポーズを経て、出会いから約1年後には結婚。富岡さんは30代半ば、妻は10歳年下の歳の差カップルだった。自宅を購入し、3人の子宝にも恵まれた。共働きでの3人育児はさぞ大変だろうから、強固な絆で結ばれた夫婦なのだろうと誰しも思う。

富岡さんにとっては「うまくいってると思っていた」という日々だったが、結婚9年目のある日、青天の霹靂とも言える出来事が発覚した。

●800万円の借金をなぜか夫が返済

その日、富岡さんはクレジットカードの明細に心当たりのない決済があることに気づく。取り乱して相談の連絡をすると、妻は「カードを勝手に持ち出して使っていた」と突然の告白をしたのだ。

「問い詰めていくと、借金をして任意整理をしたこと。クレジットカードが持てなくなったこと。借金は800万円残っていることなどがわかりました。妻の話では、買い物依存症になっていた、と」

子育て世代の夫婦が子どもを優先し、コミュニケーション不足になるのは、どの家庭でも起こり得るところだ。借金発覚という夫婦の大きな危機に際しても、残念ながら、ともに乗り越えるという経験にはならなかった。

「最終的には、私が800万円を補填しました。妻の母から『話を聞いたなら、力になってあげて』と言われたからなんですが、妻との話し合いが不完全なままで800万円問題をやり過ごしてしまったんですね」

この対応に、富岡さんは今も後悔の念を抱いている。本書では国際政治学者・三浦瑠璃さんとの対談を収録しているが、この借金問題はテーマの一つになっている。

妻が借金を重ね、任意整理までに至ったことに、気がつかないものなのだろうか。

「当時私は相当忙しく働いていました。ジャーナリストという職業柄、平日は朝早くに家を出て行き、戻ってくるのは深夜という生活。土日も半分ぐらいは仕事していましたね。Amazonのダンボールがよく届くな、玄関先に並んでいる妻の靴が多いな、という認識はしていたんですが、借金までしていたとは思いもよりませんでした」

仕事が忙しく、小さな子ども3人がいる働き盛りの共働き家庭では、基本的なところは互いを信頼をした上で、細かいことは後回しにするのは珍しくないはずだ。

慌ただしい生活だったが「妻のことは愛していたし、夫婦になれたことに満足していました。2人でご飯に行く、誕生日などにアクセサリーを贈るという最低限の努力はしていた。でも、日常生活の育児や家事サポートが足りなかったのかもしれません」と振り返る。

●喧嘩がたえない日々

借金発覚でも「雨降って地固まる」とはならず、2人の結婚生活はこれをきっかけに堰を切ったかのように悪化していった。

「妻の金銭感覚への不信感が芽生えて、他にトラブルが浮上してきたということになります。その一つが妻からのDVです」

ある日、大型テレビ用のテレビ台が富岡家に届く。かねてより、大型テレビの導入をめぐって慎重な立場の富岡さんと購入したい妻とで意見が対立していた。断りもなく突然、届いたことは、富岡さんにとって「強行突破に出た妻」(本書より)と映った。

「妻を問いただすと、激昂した妻は警察を呼ぶという。暴力にはなっていないので、110番をやめるよう僕が手を伸ばすと、彼女は僕をはたき、その時、肩が脱臼して倒れてしまったんです」

通報を受けて到着した警察官、子どもたちが見守る中、富岡さんは救急車で運ばれた。

●なぜ離婚しないのか?

ここまで読めば、誰しもが思うだろう。「なぜ離婚しないのか?」と。

「僕自身は妻に愛情を持っていますし、『好き』という気持ちもあります。紙を出せば結婚生活は終わる。決断すれば、簡単にできる選択が離婚です。だから、ボロボロになっても続けたい。もう少しあがきたいという気持ちがある」

「最終的に僕が別れることによって、彼女が一番幸せな人生になることが決定的になったら…。その時は、離婚という選択をせざるを得ないだろうという覚悟はあります」

そう淡々と語る富岡さんだが、この嵐のような夫婦関係を座して眺めているわけではない。本書を綴ったのも、「この本を1冊書くことで、一つの決着をつけようと。夫婦を続けていくためのまとめ、気持ちの付け方だった」という。

一寸先も見えない底なし沼が広がる夫婦関係を、沼底まで見渡せそうな緻密な描写で綴った。ひとり語りとならないよう、家計再生コンサルタントの横山光昭さん、教育評論家の石田勝紀さんら専門家の元を訪ね、反省を重ねていった。

その過程で、「僕ら夫婦が不仲になっている原因の過半は僕にあると思い至った。(中略)僕は変わる必要があると気づいた」(本書より)と、気持ちも少しずつ変化していった。自らを「おそらく(妻は)相当飲み込んで生活をしていた。僕は、そこそこやっているという認識で、片目どころか、ほとんど目をつぶった状態だった」との理解にも繋がったという。

●「僕の変わる姿をもう少し見てほしい」

富岡さんは妻を糺弾するために、この一冊をまとめたのではない。喧嘩の際、妻に何度も言われた「あなたには変わってほしい」という言葉。妻も結婚生活を続けようとしているとの期待を持って、内省して夫婦関係を改善していきたいと希望を抱いて記録していったのだ。

本書で、富岡さんは「妻からすると異なる景色となることは認めざるを得ない。ましてや結婚生活丸ごとの物語となれば、全くの別物に過ぎない」と書く。

冒頭の「人として認めていないから」と妻が口にした喧嘩では、その直前「あんたは私を軽んじている」という妻の発言がある。他にも「私の思うようにできない」「私が決められない」という不満も妻は口にしているという。

多忙な夫は不在がちで、3人の子と長い時間を過ごしている妻は日々、小さな決定をしているはずだ。4つの沼底には、それなのに「肝心な、大きなことは私が決められない」という妻の不満が澱のように沈殿していることは想像に難くない。

最後に、読者が気になるであろうもう1つの質問をしてみた。妻がこの本を手に取る可能性があるし、この記事を読む可能性だってある。「妻は残念ながら僕への関心は低い」と口にする 富岡さんだが、もし万一、妻がこの本を読んだら、何を伝えたいのだろうか。

「ダメな夫で申し訳ない。自分のダメだったことは120%わかって、10万字に書き起こすことで反省することもあった。僕の変わる姿をもう少し見てほしい」

血の滲むような努力の先に、夫婦はどんな結末を迎えるのだろうか。本書を読んだ読者たちもまた、自分の結婚生活を振り返ってしまうこと必至だ。

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする