「妊娠したと言われ、約170万円払ってしまった」という男性からの相談が弁護士ドットコムに寄せられています。
男性は出会い系で知り合った女性(当時19歳)にお金を払い、性的関係を持ちました。その後「あなたの子を妊娠した。結婚も認知もしなくていいから出産費用を支払って」と言われ、了承しました。
その後も度々、女性に要求されてお金を支払い続け、金額は約170万円にもふくらみました。男性は「妊娠させてしまったのだから」と納得していたといいます。
しかし、ひょんなことから女性のSNSアカウントを発見。女性は結婚しており、生まれてきた子は、女性の夫との間の子どもであることを知りました。
男性は「妊娠詐欺ではないか」と考え、刑事や民事で女性の法的な責任を問いたいと考えています。果たしてどのような手段が取れるのでしょうか。小田紗織弁護士に聞きました。
●女性の行為は詐欺罪にあたる
——女性の刑事責任を問うことはできますか?
相談者の男性は、警察に被害届や刑事告訴をすることができます。
女性が男性に「あなたの子を妊娠した」と嘘を伝え、男性は自身の子を妊娠した女性に対して責任があると誤解してしまい出産費用のつもりで、お金を払ってしまったということですから、女性の行為は「人を欺いて財物を交付させた」ということで詐欺罪(刑法246条1項)にあたります。
なお、男性は女性に性的関係をもつにあたりお金を払ったということで、買春にあたるのですが、女性が19歳ということもあり、児童買春・児童ポルノ禁止法や売春防止法の処罰の対象とはなりません。
次に、相談者の男性は、詐欺による意思表示を取り消すことができます(民法96条1項)。 ですので、騙されて支払ったお金については、その支払いについて根拠がなくなることになりますので、返還を求めることができます。
ちなみに、性的関係を持つ際に支払ったお金については売春防止法で禁止されている買春のために給付したもの、つまり不法原因給付(民法708条)となるので、返還を請求することはできません。
——女性に慰謝料も請求できるのでしょうか。
実際に裁判で慰謝料を求めるとなると裁判所が認めてくれる慰謝料額は例えば数万円~数十万程度とかなり低いと思われます。
ただし、刑事事件として手続きが進み、例えば、女性が詐欺の容疑で逮捕勾留され、起訴されるかもしれない、あるいは起訴された場合に、女性が自身の処遇に有利な材料とするために示談で慰謝料を払いたいと考えることもあります。この場合には、話し合いで相談者に有利な慰謝料額を合意できる可能性もあります。
当然、詐欺を見逃すわけにはいかないかと思いますが、女性に170万円と慰謝料を支払えるほどの資力があるのか、刑事事件の進捗もみながら、対応を検討することになるのではないかと思います。