夫婦が別居する理由は実に様々だ。その中には「相手が再婚しないように」「(配偶者が)婚姻費用を貰い続けたい」など、嫌がらせに近い思惑を抱えている人もいる。
弁護士ドットコムに相談を寄せた男性の場合、妻に「離婚はしたくないが、同居もしたくない」という理由で婚姻費用を請求されている。別居に踏み切った理由は、専業主婦の妻に「嫌いになった」と言われたからだ。
妻は相談者名義の賃貸アパートに住み続け、相談者にアパートから出ていってもらいたいと話しているという。また、相談者に「無期限」で婚姻費用を払うことを要求しているとのことだ。
婚姻関係を続けることに疑問を感じた相談者が「それならば離婚したい」と話しても、妻は聞く耳を持たず、離婚を拒否し続けているという。
●アパートから出ていく必要はない
「アパートから出ていってもらいたい」という妻からの要求を拒否することはできるのだろうか。西山良紀弁護士は、次のように説明する。
「アパートは相談者が借主なので『アパートから出ていってもらいたい』という要求に応じる必要はありません。
相談者がアパートを出て行ったとしても、賃貸借契約の当事者(賃借人の地位)を相談者から専業主婦の妻に変更することは困難だと思われます。そのため、相談者が引き続き賃借人としての義務を負い続けることになります。
離婚成立後でも、妻がアパートに居座り退去してくれないときは、アパートを賃貸人に明け渡すのに手間と時間がかかり、その間の賃料または損害金など経済的な負担を余儀なくされる可能性があります。
最初に述べたように、相談者はアパートから出ていく必要はありません。このまま妻との同居を続ける方が、逆に妻にアパートから出て行ってもらえる可能性は高いと思われます」
●「婚姻費用の支払いを免れることは難しい」
相談者は、妻が婚姻費用を要求していることにも納得いかない様子だ。しかし、西山弁護士は「離婚が成立するまで婚姻費用の支払いを免れることは難しいと思います」と語る。
「不倫をしていたなど、婚姻生活を破綻させた責任がもっぱら妻にある場合は、婚姻費用の支払いを免れる可能性があります。しかし、それ以外で婚姻費用の支払いを免れることは難しいといえるでしょう。
婚姻費用を請求してくる以上、『別居に至る責任がもっぱら自分にある』と妻側が認めることは考えにくいといえます。また、別居に至る責任がもっぱら妻側にあるという客観的な証拠がなければ、今回のケースにおいて婚姻費用の支払いを免れることは難しいと思います。
なお、相談者がアパートを出ていったときの計算方法は『(裁判所が基準にしている)算定表の婚姻費用金額-家賃相当額=妻に渡す金額』になると思います。たとえば、婚姻費用8万円、家賃5万円とすると、相談者は妻側に3万円を支払うことになります。
ただし、婚姻費用が家賃を下回るときは注意が必要です。
たとえば、婚姻費用8万円、家賃10万円だったとしても、妻から相談者に2万円返還するということにはなりません。具体的な事情にもよりますが、この場合は、相談者は婚姻費用として家賃負担とは別にいくらか妻に渡さなければならなくなる可能性もあります」
●離婚調停・裁判中に気持ちが変わることも
相談者によると、妻は婚姻関係の修復を希望しない一方で、離婚も拒否しているようだ。このような状況において、妻と離婚することはできるのだろうか。
「裁判において、妻が『婚姻関係の修復を希望しない』という意思表示をしてくれれば、離婚できる可能性はあると思います。
ただ、はじめは離婚を拒んでいた相手方が離婚調停や離婚裁判中に気持ちが変わり、離婚に応じることもあります。離婚が難しいと思われるケースでも、このようなことは珍しくありません。
離婚したいという気持ちが強いのであれば、とりあえず離婚調停を申し立ててみるのもよいでしょう」