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意外に多い「離婚後も同居」のリスク…夫の「美味しすぎる約束」に落とし穴はないか?
画像はイメージです(Fast&Slow / PIXTA)

意外に多い「離婚後も同居」のリスク…夫の「美味しすぎる約束」に落とし穴はないか?

離婚後は同居を解消し、別々の家に住むことになる場合が少なくない。しかし、離婚後もパートナーと同居を続けたいと考えている人たちもいるようだ。

弁護士ドットコムにも、夫に「離婚後に同居をしないか」と提案された女性からの相談が寄せられている。離婚後に同居する場合、注意すべきことはあるのだろうか。

●夫が提示した離婚の条件が「好条件」

相談者は夫から離婚をしてほしいと言われ、これまで拒否し続けてきた。しかし、夫が提示した「離婚の条件」が好条件であることから、離婚を迷い始めているという。

具体的な条件は、下記のとおりだ。

(1)持ち家(夫婦で購入)には、夫・相談者・子どもで暮らし続ける (2)生活費はすべて夫が負担する (3)相談者と一緒に住んでいる間は夫は再婚しない

実際に離婚する場合はこれらの内容を公正証書にするつもりだという。一見、相談者にとっては有利な話のようにも見える。実際に落とし穴はないのだろうか。

離婚男女問題に詳しい木下貴子弁護士は「様々なリスクがあり、慎重に判断したほうがいい」と指摘する。以下、詳しく話を聞いた。

●「事情が変わったら、変更が認められる可能性がある」

ーー相談者は当初、離婚を拒否してきたのですが、離婚後の生活に不安がない条件を提示されたことで、気持ちが揺らいでいるそうです。この内容は懸念はないのでしょうか。

「1つ1つの条件は有効であっても、事情が変わった後に変更が認められる可能性があることに注意が必要です」

ーー具体的なリスクを教えてください。

【(1)持ち家(夫婦で購入)にこれまでどおり、夫・相談者・子どもで暮らしてよい】

(1)は、無償で他人に住居の一部を使わせる合意と考えられます。しかし、お互いの仲が悪化し、信頼関係が破壊されれば、合意後に「事情変更」があったとして、退所請求が認められてしまう可能性があります。

次に【(2)生活費はすべて夫が負担する(ただし、お金の管理も夫)】も同様に、事情変更があれば、変更が認められる可能性はあります。

そして【(3)相談者と一緒に住んでいる間は夫は再婚しない】という条件は、人格に関する問題なので、合意をしたとしても拘束すること自体は難しいと思います。違反した場合の慰謝料については請求できる可能性はあります

ただ法律婚は、法律で一定の権利が守られているのに対し、法律婚と同じような状況を維持しようとすると、『恩恵』を受けているにすぎないと捉えられて、合意をしても変更が認められやすくなると思います」

●恋人ができたら「不貞関係」になる恐れ

ーーほかに公正証書に残す場合に追記すべきことやアドバイスはありますか。

「もし仮に夫や相談者に交際相手ができた場合、その相手との関係が不貞とされる危険があります。内縁関係(事実婚)であることを明示すると、不貞行為としての慰謝料の請求が出来る可能性が出てくるからです。

離婚後の同居が『法律婚から内縁(事実婚)に変わるだけ』なのか、『単なる同棲(同居)』になるのかという観点でみます。

相談者の場合、再婚禁止条項があることから、裁判所は内縁関係と認定される可能性があります。そのため、これに伴う貞操義務などの権利義務が生じうると思います。さらには、財産分与や内縁(事実婚)期間中を年金分割の対象とできる可能性が増えると思います」

ーー離婚後の期間も法律婚と同様に、財産分与や年金分割の対象になるのですね。その場合、注意することはありますか。

「年金分割請求は、離婚後に内縁(事実婚)が続いていても、離婚時から2年で法律婚期間分は請求できなくなりますので、年金分割をしたいときには離婚届から2年以内に手続きをする必要があります。

財産分与請求については、内縁(事実婚)が継続しているとなれば、その解消時に請求できる可能性もあります。しかし原則として、離婚後2年で請求できなくなるので、請求できなくなるリスクがあります。

また、2年後に合意で不動産の名義を変えることになったとしても、財産分与を理由とすることが難しくなり、税金負担が重くなる可能性があります」

ーー今回の相談者の場合、夫が提示したプランはあまり得策ではないようにも感じられます。

「そうですね。関係悪化して、住みづらくなったときの保証がありません。事実上は法律婚をしていたときの状況とほとんど変わらないとすれば、なぜ相手方はこのような要求をするのか。相手にとってのメリットは何なのかを検討すべきだと思います。

これらの点で、様々な条項を入れてみても、どう解釈されるかわからない点が残り、リスクが残ると思われます。そういったリスクを考えながら、提案を受けるかどうか慎重に判断されることが望ましいです」

プロフィール

木下 貴子
木下 貴子(きのした たかこ)弁護士 多治見ききょう法律事務所
離婚・親権・養育費の分野で1000件以上の案件を扱う。「離婚後の親子関係の援助について」「養育費」をテーマに講演。離婚調停での「話し方」アドバイスブックはこれまでに2万人以上が利用している。著書「離婚調停は話し方で変わる」「離婚回避・夫婦関係修復につなげる話し方の技術」がAmazon法律部門他ランキング第1位獲得。

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