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自衛隊はコロナとどう戦ってきたのか 緊急事態宣言でも変わらない地道な活動
新型コロナウイルスの患者を受け入れてきた自衛隊中央病院(東京都世田谷区)

自衛隊はコロナとどう戦ってきたのか 緊急事態宣言でも変わらない地道な活動

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、国のあり方が問われています。「国を守る」ということから思い浮かぶのは自衛隊ですが、彼らは新型コロナウイルスとどう戦ってきたのでしょうか。

3月11日に河野太郎防衛大臣が行ったツイートが話題になっています。内容は、「自衛隊病院、3月10日時点でこれまで感染者122名を受け入れ、114名退院、2名転院、6名が現在、入院中です」というものです。

チャーター機で中国の武漢から帰国した邦人の受け入れや、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセスでの活動など、新型コロナウイルスに対応して、自衛隊は様々な活動を行ってきましたこれまでの活動と、今後の展開について考えます。(ライター・オダサダオ)

●阪神大震災を踏まえ、災害派遣要請の簡素化が図られている

そもそも自衛隊はどういう法的根拠で新型コロナウイルス対処に出動したのでしょうか。今回の活動は、自衛隊法第83条2項にある災害派遣の名目で実施されています。これは地震などの災害に対して適応されるものですが、実際にはそれよりも幅広い範囲を扱うことが多くなっています。例えば、2020年1月8日に出された災害派遣命令では、沖縄県で発生した豚コレラに感染した豚の殺処分支援や消毒活動が行われました。

通常の災害派遣は、都道府県知事による要請に基づいています。しかし、1995年1月に発生した阪神淡路大震災では、都道府県知事との連絡が取れず、自衛隊の出動が遅れました。大規模災害では、通信網が寸断されてしまうために、必要な要請が出されないことが予想され、その結果助かる命も助からないという状況が生まれかねません。

こうした教訓を踏まえて、1995年10月に自衛隊法施行令が改正され、災害派遣要請の簡素化が図られました。同じ月には防衛庁防災業務計画の修正が行われ、自主派遣(自衛隊法第83条2項但し書き)の要件が明確化されました。

そこでは、①関係機関への情報提供のために情報収集を行う必要がある場合、②都道府県知事などが要請を行うことが出来ないと認められる時で、直ちに救援の措置をとる必要がある場合、③人命救助に関する救援活動の場合、などの条件を満たす場合には、要請を待たずに派遣されるとしています。しかし、実際には、都道府県知事等からその後で派遣要請を受け取ることが多くなっています。

今回の新型コロナウイルスの感染拡大防止については、新型コロナウイルスの感染拡大防止が緊急性を要し、都道府県知事の要請を待ついとまがないことから、要請を待たずに武漢からの帰国者の支援にあたってきました。この後、自衛隊は新型コロナウイルスへの対処を行っていくことになります。

●ダイヤモンド・プリンセスの支援では1人も感染者を出さなかった

新型コロナウイルスの対処ということで、自衛隊は様々な活動を行いました。河野防衛大臣のブログでは、その活動が詳細に解説されています。まず、1月29日に厚生労働省の要請を受け、発生地の中国武漢市から帰国する邦人の防疫支援に自衛隊中央病院の看護官が派遣されました。

感染者の増加を受けて、1月31日に自衛隊法第83条第2項但し書きに基づき、感染症対策のための自主派遣命令が出されました。同日、帰国者の支援のために、はくおうを横須賀基地へと出港させました。はくおうは、PFI方式で自衛隊が使用している船です。民間の資金によってつくられた特別目的会社(はくおうの場合は高速マリン・トランスポート)と防衛省が使用契約を結び、平時の整備や訓練は新日本海フェリーが行い、必要がある時に防衛省がチャーターするという船です。

自衛隊の活動で大きかったのが、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセスへの対処です。2020年1月25日に香港で下船した中国系の男性乗客がコロナウイルスに感染していることが、2月1日に明らかになりました。ほかの乗客への感染の可能性があったため、ダイヤモンド・プリンセスでも検疫の処置が必要となりました。

ダイヤモンド・プリンセスは、イギリス船籍でイギリスP&O社が所有し、アメリカのプリンセス・クルーズ社が運航しています。国際法上、公海上の船舶には船籍を有する国が対処することとされています。領海を通航中であっても、陸上と同等の管轄権が及びません。このことは、後の検疫を難しくした面があります。ダイヤモンド・プリンセスの事態を受けて、船舶の感染症に対する国際法の枠組みには穴があることが指摘されています。ダイヤモンド・プリンセスに対する対応は未知の要素を含んでいました。

本来、公海上の船舶には旗国、つまり船籍国が対処することになっていましたが、今回の場合は乗客に日本人が多かったことから、日本が寄港を受け入れ、検疫を行うことになりました。 2月6日に自衛隊はダイヤモンド・プリンセスの乗客と乗組員の支援のために活動を開始します。横須賀基地に回航されていたはくおうをダイヤモンド・プリンセスが停泊している本牧ふ頭に移動させ、ここを拠点として活動を開始しました。その後、川崎近海汽船が所有するシルバークイーンも防衛省の要請により、この活動の支援のために使用されました。

2月7日から現地での活動が開始されました。細菌兵器や化学兵器などの対処にたけた特殊兵器衛生隊も投入され、生活支援やPCR検査などの医療支援にあたりました。3月16日に災害派遣活動が終了するまでにのべ、ダイヤモンド・プリンセスには2700人、武漢市から帰国した邦人の支援には、2200人の隊員が投入され、生活支援や医療支援にあたってきました。

この間、自衛隊は厚生労働省よりも厳しい防護措置を取り、1人の感染者を出すことなく、活動を終了しました。その後も自衛隊中央病院は患者の受け入れをつづけ、新型コロナウイルス対処へのノウハウを他の病院に提供しています。

自衛隊中央病院のHPより 自衛隊中央病院のHPより

●野外病院の開設や、自衛隊機による患者移送の可能性は?

新型コロナウイルスの終息は見えない状況ですが、今後、どうなるのでしょうか。4月初旬現在で予想されているのが、緊急事態宣言です。緊急事態宣言が出された後、自衛隊の活動は変化するのでしょうか。新型コロナウイルスに対処する医療支援は引き続き行われるでしょう。現状の災害派遣でも同じ活動が行われているので、活動自体が変化するということはありません。

しかし、今後、感染者数がさらに増加し、現在の体制では対処しきれないという場合もあります。改正された新型インフルエンザ等対策特別措置法第49条では、臨時の医療施設を開設するための土地の使用が定められています。第2項では、土地の所有者、占有者が正当な理由なく同意しない場合、所有者もしくは占有者の所在が不明で、都道府県知事等が必要性を認めるとき、同意がなくとも土地の使用を認めると定められています。

既存の病院ではなく、野外病院を開設する場合には、自衛隊の出番となるでしょう。陸上自衛隊の衛生科部隊には野外手術ユニットが装備されており、過去には東日本大震災で活躍しています。また、野外病院に限らず患者数が増加した都道府県から他の都道府県に自衛隊の航空機などを使って移送するという場面もあるかもしれません。

緊急事態宣言というと、ロックダウン(都市封鎖)というものが連想されます。海外では、外出禁止令が出されていますが、現在の日本の法律では外出禁止令を出すことは難しくなっています。コロナウイルスの蔓延で改正された新型インフルエンザ等対策特別措置法第45条1項でも、外出しないよう要請するとありますが、あくまでも要請であり、命令ではありません。

しかし、自粛要請が出され、巡回する警察官などから、帰宅が促されればおとなしく帰宅する人が大半かと思われます。4月初旬現在でも、政府の拘束力のない自粛要請に従い、企業はテレワークや時差通勤に協力し、イベントなどは開催を自粛しています。また、東日本大震災のような大規模災害でも、特に治安悪化などは見られませんでした。今回の新型コロナウイルスの広がりは、大きな出来事ですが、治安の悪化を招くとは考えづらいでしょう。

●事態が悪化しても、治安出動が行われる可能性は低い

万が一治安が悪化した場合、自衛隊が出動することはあるのでしょうか。自衛隊法78条では内閣総理大臣の命令による治安出動、81条には都道府県知事の要請による治安出動が定められています。2020年4月までに治安出動が命令されたことはありません。警察での対処が可能だったということもありますが、治安出動に対して、防衛省・自衛隊としても懐疑的だったということも理由として挙げられます。

1960年の安保騒動で治安出動が検討されましたが、当時の防衛庁長官が反対して、出動が見送られました。治安出動では、国民に対して自衛隊が銃を向けるという場面も想定されます。そうしたならば、災害派遣など、地道に自衛隊が続けてきた活動に対して国民が寄せている信頼が失われてしまうでしょう。そうしたことを懸念して、治安出動は行われませんでした。治安出動はそれほど大きなものです。今回の事態でも、警察の手に余るほど、治安が極度に悪化するということは考えづらく、治安出動が行われる可能性は低いとみるべきでしょう。

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、自衛隊は地道な活動を通じて、コロナと戦ってきました。感染は拡大を続け、緊急事態宣言が出されることも想定されています。その中でも自衛隊は変わらずに活動し続け、新型コロナウイルスとの戦いを続けていくのでしょう。

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