2019年08月10日 11時05分

N国・立花孝志氏が新たな受信料訴訟、背景にある「支払い義務化」問題

N国・立花孝志氏が新たな受信料訴訟、背景にある「支払い義務化」問題
立花孝志氏(2019年8月2日、編集部撮影、日本外国特派員協会)

議員会館自室のテレビについて、NHKと受信契約を交わした「NHKから国民を守る党」の立花孝志氏。受信料については8割分しか払わないといいます。残りの2割については払う義務がない(債務不存在確認)という裁判をこの秋に起こすそうです。

8割しか払わない理由は、受信料の世帯支払い率(推測)が約8割となっているからです。テレビを持っているのに、受信料を払っている人といない人がいる。立花氏はこの不公平をなくしたいとしています。

受信料の推計世帯支払率の推移 受信料の推計世帯支払率の推移。データはNHK発表より

同党の公約は、お金を払っている人だけがNHKの放送を視聴できる「スクランブル放送」の実現です。これも受信料についての不公平感をなくすためのものだそうです。

そのため、国民の多数が支持するのであれば、受信料の不払いに罰則をつける「罰則付き支払い義務化」にも反対しないと言います。

●放送法には「支払い義務」の明記なし、不払いの理由に?

なぜ、受信料を払わない人がいるのでしょうか。国会では数十年前から、放送法に「支払い義務」が明記されていないことが理由の1つとして挙げられています。

放送法64条1項には、テレビ(受信設備)を「設置した者」は、NHKと「契約をしなければならない」と書かれています。しかし、「受信料を支払う義務」には言及されていないのです(規約にはある)。立花氏も当初は「契約はするけど払わない」としていました。

放送法64条1項本文 放送法64条1項本文

放送法が「支払い義務」を明記していないのは偶然ではなく、意図されたものです。「受信料を支払わなければならない」とできるところを、あえて「契約」というワンクッションを挟んでいるのです。

契約した以上、受信料を払わないと契約違反になるわけですが、こうした条文の曖昧さが「契約はするけど払わない」といった態度を許してしまっているのではないかと長らく指摘されています。改めて、受信料の位置付けを考えてみたいと思います。

●放送法案の変遷、強制力どんどん弱く

テレビの設置者に「契約義務」を求める放送法は1950年に制定されました。

しかし、初期の草案(1948年1月)は、受信料について「支払わねばならない」としていました。当初の受信料は「契約義務」ではなく、「支払い義務」で考えられていたのです。

初期の放送法草案(1948年1月) 初期の放送法草案(1948年1月)

草案を受けた放送法案にも同様の表現がありましたが、内閣交代などのため、実質的に審議されることがありませんでした。

翌1949年に提出された新しい放送法案では、支払い義務ではなく「契約を締結したものとみなす」という表現に改められました。

放送法案(1949年3月1日) 放送法案(1949年3月1日)

これが最終的には「契約をしなければならない」と改まって、現在の形になっています。

放送法の制定過程を辿れば、「支払い義務」→「契約擬制(契約したとみなす)」→「契約義務」と強制度合いが弱まっていることがわかります。

この辺りの経緯は、NHK放送文化研究所の「放送研究と調査」(2014年5月号)の村上聖一『放送法・受信料関連規定の成立過程~占領期の資料分析から~』にくわしく書かれています。

●2度も廃案になった「支払い義務化」改正案

しかし、放送法の施行からしばらくたつと、支払い義務化にしようという機運が高まってきます。

1964年、NHKを所管していた郵政大臣の諮問機関「臨時放送関係法制調査会(臨放調)」は、「受信契約の強制」ではなく、法律で直接「支払い義務」とすることが望ましいとする答申書を出しています。

これを受けて、1966年には、受信料の支払い義務化を含めた「放送法改正案」が提出されています。しかし、別論点で審議が難航し、廃案になりました。

1980年にも、支払い義務化の改正案が出されました。このときは一歩進んで、受信料を支払わない相手に対しては、遅滞金を徴収でき、さらに一定期間を経過しても払わないときは受信料の倍額を徴収できると明記されていました。

放送法改正案(1980年) 放送法改正案(1980年)

ところが、衆院の解散により、これも廃案となっています。

●支払い義務化は、事実上の国営放送化か?

テレビを持っているのに受信料を払っている人と払っていない人が出てくると、払っている人からは不公平だという不満が出てきます。

しかし、支払い義務化にすれば良いのかというと、そう簡単ではありません。

たとえば、NHK労働組合の中央執行委員長だった須藤安三氏は1980年、国会に参考人招致されたとき、次の3点をあげ、支払い義務化に反対しました。

(1)支払い義務化は反発を招き、かえって徴収率が下がる、(2)支払いがない人への罰則が強化され、実質的に税金と変わらなくなれば、事実上の国営放送になる、(3)国営放送になれば、言論の自由が損なわれ、民主主義に資することができないーー。

「NHKの放送そのものが受け手の側であります国民の方々に必要とされるかどうかの判断をゆだねる以外にないと考えております。つまり、いい放送を出すことのほかに国民的な合意を得る道はないということであります」(1970年4月9日、衆院・逓信委員会)

須藤氏はNHKの努力によって、「自発的な民意」を得るよりないと話しています。

●「自発的な民意」から「裁判での契約強制」へ

NHKは2004年に発覚した不正支出問題の余波で、受信料の支払い拒否などが増えた時代がありました。ある意味では、「自発的な民意」の発露です。

受信料の支払い拒否・保留数の推移 受信料の支払い拒否・保留数の推移

ところが、受信料制度の危機的な状況を受けて、受信料についてNHKが裁判を起こすようになりました。2017年12月には、最高裁大法廷が受信料制度を合憲と認めています。

NHKは提訴にまだ抑制的であり、現実的にも全員を訴えることは不可能でしょう。とはいえ、受信契約が裁判で判断されるようになり、「自発的な民意」の時代は終わりを迎えていると言えるのかもしれません。

●NHK会長、支払い義務化に「視聴者の理解が重要」

現在も支払いの義務化は国会でたびたび議題にあがっています。義務化について、NHKの上田良一会長は2018年3月22日の衆院・総務委員会で、次のように述べています。

「支払い義務の明文化には放送法の改正が必要であり、仮に改正を行う場合には、国民的な議論が十分行われ、視聴者の理解が得られることが何より重要だと考えております」

「罰則つきの義務化というお話ですと、(受信料制度等検討委員会から)『罰則等の法制化を伴う支払義務化を行うことは、NHKの公共放送としての性格への影響等を考慮すると、慎重に検討すべきものである』という御意見を賜っております」

2019年の放送法改正により、NHKはネットの常時同時配信ができるようになります。当面は受信契約がある人のみが利用できる形態になるそうですが、いずれネットに接続可能なデバイスを持っている人すべてに解放される日が来るかもしれません。

そうなれば、契約対象の急拡大を考えても、罰則を含めた支払い義務化の議論は避けられないかもしれません。

各国の受信料制度 各国の受信料制度。海外の事例は金田勝年法相(当時)の意見書(2017年12月最高裁大法廷判決の事件)から2014年の数字。日本は2018年度のNHK発表より

なお、海外に目を向けると、イギリスやフランス、ドイツ、韓国では罰則を設けるなどして、徴収率が90%を超えています。

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