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「憲法の理想、思い出して」33年続く原爆朗読劇からの問いかけ 映画『誰がために憲法はある』
(C)「誰がために憲法はある」製作運動体

「憲法の理想、思い出して」33年続く原爆朗読劇からの問いかけ 映画『誰がために憲法はある』

5月3日の憲法記念日を前に、映画『誰がために憲法はある』(井上淳一監督)が4月27日から、ポレポレ東中野(東京)などで上映されている。

紫綬褒章や旭日小綬章も受章した女優・渡辺美佐子さん(86)が33年もの間続けている「原爆朗読劇」に密着したドキュメンタリーだ。

活動のきっかけは1980年にテレビ『小川宏ショー』に出演したことだったという。番組の企画で「会いたい人」として初恋の少年をあげたところ、その両親が登場。少年が疎開先の広島で、原爆の犠牲になったことを知らされた。

爆心地にいたため、遺体はおろか、遺品も残らなかった。何もないから、原爆投下から35年(当時)たっても墓を建てられないという。映画の中で、渡辺さんは当時を次のように振り返る。

「原爆という恐ろしいもののことは知っていましたけれど、(犠牲者の)数の大きさで思っていたことが、あの男の子がその中の一人だっていうことで、ものすごく、ガーンと近くになっちゃったんですよね」

渡辺美佐子さん(C)「誰がために憲法はある」製作運動体

戦争を体験している渡辺さんですら実感が乏しかったとすれば、戦後生まれがその悲惨さを自分ごととして感じる難しさはいかばかりか。だからこそ、唯一の被爆国の演劇人として伝えていかなくてはならないーー。

渡辺さんは、演出家・木村光一さんの誘いに応じ、1985年から朗読劇『この子たちの夏』で全国を回るようになる。母を亡くした子、子を失った母たちの膨大な手記をもとに、平和の尊さを実感してもらおうという試みだ。

上演してきた演劇制作体「地人会」が2007年秋に解散すると、出演女優たちで「夏の会」を結成。2008年から朗読劇『夏の雲は忘れない ヒロシマ・ナガサキ 1945年』の上演を続けている。

しかし、高齢化もあって『夏の雲は忘れない』の公演は2019年が最後になる。映画では、出演女優たちがそれぞれの気持ちを語り、「平和の仕事」を受け継いでほしいと訴える。

朗読劇の様子(C)「誰がために憲法はある」製作運動体

●憲法にこめられた理想

映画冒頭、渡辺さんは日本国憲法を擬人化した「憲法くん」を演じる。お笑い芸人・松元ヒロさんが20年以上、取り組んでいる一人語りだ。

「私というのは、あの戦争の後、こんなに恐ろしい、こんなに悲しいことが二度とあってはならないという気持ちから生まれた理想だったのではありませんか」

「理想と現実が違っていたら、普通は現実を理想に近づけようと努力するものではありませんか」

渡辺さんはそう語り、「憲法の魂」だとして、その前文を暗唱する。

「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。

日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。」

作品について、井上監督は次のようにコメントしている。

「戦争の記憶が薄れ、憲法にこめられた理想が忘れ去られつつあるいまこそ、ひとりでも多くの人にこの映画が届くことを願うのみである」

(弁護士ドットコムニュース)

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