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「アウティングを肯定されたような気持ち 」一橋大生転落死、大学を訴えた遺族敗訴
判決後に会見する遺族代理人の南和行弁護士(左)と吉田昌史弁護士

「アウティングを肯定されたような気持ち 」一橋大生転落死、大学を訴えた遺族敗訴

ゲイであることを暴露(アウティング)された一橋大の法科大学院生(当時25歳)が、大学敷地内で転落死した「一橋大アウティング事件」。遺族が一橋大学を相手取り、相談対応の不備など安全配慮義務違反などがあったとして、約8576万円の損害賠償請求をしていた裁判で、東京地裁(鈴木正紀裁判長)は2月27日、遺族の訴えを棄却した。判決後の会見で、遺族代理人の一人である南和行弁護士は「アウティングの重大性に一切、触れていない残念な判決」と悔しさをにじませた。遺族が控訴するかは現在、検討しているという。

●「大学側に転落死の予見性もなかった」遺族に厳しい判決

訴状などによると、亡くなった学生は2015年6月、法科大学院の同級生でつくるLINEグループで、同級生男子からゲイであることをアウティングされた。その後、学生は体調を崩し、2015年8月24日に大学構内の建物から転落死した。学生はアウティング後にハラスメント相談室やロースクールの教授に相談、また亡くなった当日も保健センターで話すなどしていた。

遺族側は、大学が学生に対する安全配慮義務や教育環境配慮義務に違反し、アウティングが同級生による加害行為であり、学内いじめであるという認識を欠き、救済の対応をしなかったなどと主張。一方、大学側は十分な対応をとっており、転落死は予見できなかったとして全面的に争っていた。これに対し、判決では、大学側の主張を認め、転落死の予見性もなかったとして、原告の主張をすべて棄却した。

判決後、東京・霞が関の司法記者クラブで、遺族代理人の南弁護士と吉田昌史弁護士が会見。南弁護士は、「今回の判決の最も残念なところは、アウティングが不法行為であるかどうかという判断すらしていない点です。そもそもアウティングの本質的な問題は、個人のデリケートな問題である性的指向を暴露したことで、人間関係が壊れるということです。その重大さに判決は一切、触れていません。表面的な判断で、大学側の責任がなかったと言ってしまっている」と語った。

吉田弁護士も、「アウティングという行為の持つ危険性を裁判所に訴えてきたつもりでした。加害行為が行われたということに対し、大学にどの程度の義務があるかどうか、判断していただきたかった。その危険性を前提しない判断で、すごく残念な判決。アウティングによって、一人の若者が命を無くしているという現実を裁判所に審議していただきたかった」と話した。

この日、会見に遺族は参加しなかったが、南弁護士が遺族による感謝のコメントを代読した。

「(提訴から)今日までの2年半にわたり、ずっと気にかけてくださり、応援してくださり、さらに社会の問題として情報を出してくださり、そして何よりも亡くなった本人のように、思いを寄せてもらい、ありがとうございました」

この事件以後、、筑波大や大阪大、龍谷大などではセクシャルマイノリティの学生への対応ガイドラインなどを策定。一橋大がある国立市では全国初の「アウティング禁止」条例も施行されるなど、各地で取り組みが始まっている。

● 遺族「アウティングも大学の対応も肯定されたような気持ち」

一方で、遺族は訴えをすべて棄却という判決に失望もあらわにしている。「今は言葉もありません」(母親)、「人が一人、亡くなった事実があったのに、今日の判決はうわべだけで判断しているように思う。この訴訟があってから、大学がどんどん変わっている中で、他の大学から笑われるような内容じゃないか」(父親)、「アウティングのことも大学の対応も、まるで肯定されたような気持ちです。また、被害者が出るだろうと思うと、日本の司法はそんなものなのかと残念です」(妹)などのコメントも発表された。

南弁護士自身も、生前に弁護士を目指していたという学生と交流があったといい、会見中は涙で声を詰まらせる場面もあった。アウティングの再発防止について、南弁護士はこう語った。

「アウティングをされた人というのは、自分が作ってきた人間関係の中で、突然、スケスケ光線銃で裸にされるような感覚です。『気にしてない』と言われても、それまで見せてきた自分とは違う自分を暴露されていることですので、その不安感ですし、それが孤立感につながる。そういう時、アウティングに巻き込まれたみなさんは、なかったことにするのではなく、その孤独をわかった上で、新しい人間関係を作ることできればと思います。それが、された人を救う上で大事だと思います」

●一橋大学「引き続き、マイノリティーの権利の啓発と保護に努める」

また、一橋大も同日、公式サイトで次の通り、コメントを発表した。

「平成28年3月に大学その他一名を被告として提起された民事損害賠償訴訟について、この度裁判所から原告の主張をすべて棄却する旨の判決が言い渡されました。

改めて亡くなられた学生のご冥福をお祈りし、遺族の方々に弔意を表します。

本件につきましては、裁判において、事実に基づき、大学側の立場を明らかにして参りました。本学と致しましては、引き続き、学内におけるマイノリティーの方々の権利についての啓発と保護に努めて参ります」

なお、遺族と暴露した同級生は、2018年1月15日付で和解している。

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