同性のカップルが法律婚できないのは違憲だと訴える訴訟が2月14日、東京、札幌、名古屋、大阪の4つの地方裁判所で同時に提起される。原告は13組の同性カップルで、「婚姻の自由」の侵害などを訴えるという。同性婚が認められていない現状について憲法違反を問う訴訟は全国でも初めてとなる見込みだ。
このニュースが昨年12月に報じられると、ネットではさまざまな反響があった。その一つが、「わざわざ法制度を変えてまで、同性婚を認める必要はない」という反対の意見だ。しかし、電通が1月に公表した調査によると、同性婚の法制化について「賛成」「どちらかというと賛成」と答えた「賛成派」の割合は、計78.4%だった(対象は約6万人)。
なぜそれほど、同性婚の法制化が求められているのか。当事者はどのような悩みを抱えているのか。今回の訴訟の弁護人で構成する「結婚の自由をすべての人に」訴訟弁護団のメンバー、寺原真希子弁護士(東京弁護団共同代表)と南川麻由子弁護士に聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)
●40年以上連れ添っても、相続もなく火葬場にも行けない
——現在、同性婚については2000年代以降、欧米を中心に各国で法制度が整いつつありますが、G7で同性婚を認めてないのはイタリアと日本のみ。ただし、イタリアは国として同性パートナーシップ制度があり、国レベルで法制度が全くないのは日本だけです。同性カップルの人たちは現在、法律婚した異性カップルと比べて、法的にどのような状態に置かれているのでしょうか?
寺原弁護士:たとえば、法律婚をしていれば、片方の配偶者が亡くなった時、残された配偶者には相続権が保障されています。相続税の大幅な軽減措置もあります。しかし、結婚が認められていない同性カップルの人たちはそのような権利・制度の利益を享受することができません。子どもの親権についても、異性間夫婦なら共同親権が持てますが、同性カップルの場合は一方のみです。所得税など各種税金の配偶者控除も、同性カップルには適用されません。さらに、異性カップルであれば、法律婚であっても事実婚であっても、健康保険の扶養家族となることができ、遺族年金を受給することもできますが、同性カップルにはいずれも認められていません。
このように、婚姻している異性カップルは法律で明確に規定されている様々な権利・利益を享受することができますが、同性カップルはそれらを享受することができず、大きな不利益を被っています。
南川弁護士:相続の話でいえば、長年連れ添ったカップルの一方が亡くなり、亡くなった方の遺族(相続人)との間で争いになるケースもあります。例えば、これは私たちが担当している事案ではありませんが、長年連れ添い、2人で支え合って財産形成をしてきた男性カップルのケースで、パートナーが先に亡くなってしまい、残された男性はパートナー名義の不動産などの財産を相続できず、亡くなったパートナーの相続人に対して、生前の約束に基づく財産の分与などを求めて訴訟を提起したという事案が報じられています。
同性カップルは結婚できないために、配偶者としてお互いの相続人になることが認められません。確かに遺言を公正証書で残し、相続人に指定することはできますが、遺族から遺留分を求められることもあり、法律婚の配偶者に比べて不利です。また、相続ではなく、遺贈になりますので、相続税の配偶者控除も受けられません。
同性婚が認められていないせいで、相続に備えて、やむを得ず養子縁組という選択をするカップルもいますが、対等なパートナー関係なのに親子という形式でしか相続人になれないのはおかしいですよね。また、「私たちはステディな関係です」と公にできない人たちもいます。同性愛者に対する差別があるがために、そこに踏み出せない人たちもいるのです。
●「同性カップルが日常生活でどんな時に困るか」という視点
——大阪地裁の訴訟の例では、男性はパートナーの親族から火葬場への同行も断られ、同性愛者に対する差別も訴えていると報道されていますね。利益がある、なしだけでなく、当事者の方たちが抱える悩みは多いのだと思いました。
南川弁護士:同性婚のことを考える前に、まずそもそも「法律婚」って何だろうということを考えてみましょう。法律や制度という理屈からではなく、「同性カップルの人たちが結婚を選択できないことで、日常生活においてどんな場面で困るか」という目線で改めて整理してみると、法律婚によって得られる権利や利益、機能がとても幅広い分野にまたがっていることに改めて気づきます。意外と皆さんもあまり深く考えたり意識していことがないかもしれませんが、異性同士で法律婚する場合には、当たり前過ぎてほとんど意識しない権利や利益、機能が「法律婚」には自動的にパッケージで付いてくるのです。
たとえば、法律婚している夫婦だったら、「日常家事代理権」がありますので、一方が他方の名義で電気や水道の契約をすることができます。同性カップルはそれができません。
あるいは、法律婚カップルなら、一緒に住む家を探すときにも、何の説明もなく夫婦、家族として物件を探すことができますが、同性カップルの場合、なかなか家族として扱ってもらえず、単なる同居人という位置づけで物件を探さざるを得ない。実際に、断られてばかりでなかなか借りられる物件がないという苦労をしているお話をよく耳にします。
また、子育ての面でいうと、例えば、保育園や学校でも法律婚をしている夫婦であれば何の説明もいらずに双方が子どもの保護者として扱われますが、同性カップルの場合は2人ともが保護者として振る舞うためには、いちいちまずカミングアウトして、2人がどのような関係なのか説明しなければなりません。
それから、「もしもパートナーが病気にあった時に不安だ」という話もよく聞きます。病院で病状を説明してもらったり、治療方針を決めたりする場合、同性のパートナーの場合は家族として関わることを拒否されることがあります。特に、一番近しい存在なのに、意識がなくなっているパートナーの医療上の決定に関われないのでは、という心配をされている方は多いです。病院の裁量ではありますが、実際に病室から締め出されたケースも聞きますので、そこがとても難しいです。法律婚をしている夫婦だったら、そんな心配はありません。
こうした話は、挙げればきりがありません。法律婚している異性カップルが当たり前に簡単に享受できるものを、同性カップルはまったく得られていないのです。
寺原弁護士:同性カップルは、そもそも、結婚という入り口にすら立たせてもられていません。「正式な」カップルとして社会に承認されえないという現実を日々突き付けられて、間違った生き方をしているわけではないのに、まるで間違っているかのように自尊心を深く傷つけられています。そのような中で自己肯定感を保つことは難しく、心理的な不利益が非常に大きいことにも目を向けていただきたいです。
●自治体の同性パートナーシップだけではダメ?
——よく言われる反論は、渋谷区や世田谷区から始まった同性パートナーシップ制度があるのだから、同性婚までは必要ないというものです。これらはどのように違うのでしょうか。
寺原弁護士:同性パートナーシップ制度は2019年1月末現在で、11の自治体で導入されていますが、あくまで自治体単位の条例や要綱でしかなく、国の法律ではありません。つまり、結婚した場合と同じ法的な効果があるわけではありません。ではなぜこの制度ができたのかといえば、たとえば、自治体の公営住宅への入居資格が得られるなど、自治体でできることでは異性カップルと同等の扱いを受けられるようになったり、医療の現場などでパートナーを親族と同様に扱ってもらうために関係性を証明する際などの事実上の証明手段として利用することが考えられます。ただ、パートナーシップ証明書に法的効力があるわけではありませんので、それでも病院などが2人の関係性を認めない場合もありえます。
南川弁護士:同性パートナーシップ制度は、全国約1700ある自治体のうち、まだ11自治体にしか導入されていません。性的マイノリティに対する差別を撤廃するなどの条例すらない自治体も多いです。取組みを進めている自治体も、本来は国に制度を整備するべきだけれどそれが実現しておらず、現場で差別を受けて困る人たちがいるから、苦肉の策としてパートナーシップ制度を導入しています。もちろん、制度が導入されることにより、性的マイノリティの人たちが身近にいるんだなと皆さんに伝えられますし、社会的な意識の変革にはつながるという効果はあります。
寺原弁護士:このような取組み自体は意義があることですが、まだまだ、社会において、「可哀想だから配慮する」だとか、「思いやりを持って接してあげなければ」などと、対等ではない関係性が見え隠れすることもあります。これは、「可哀想」「思いやり」というレベルの問題ではなく、人権の問題です。同性愛等の人々は、誰にでも当然保障されるべき人権が保障されていない状態におかれているのであって、それを解消していくことは、社会全体の責務です。
●同性カップルがこれまで訴訟を起こさなかったのはなぜ?
——今回、日本では初めて同性婚が認められていない現状の憲法違反を問う訴訟になります。なぜ、原告の方々は訴訟という手段を選ばれたのでしょうか。逆にいえば、なぜ今まで、訴訟はなかったのでしょう。
寺原弁護士:同性愛等の人々は、同性婚を必要としていなかったから訴訟をしてこなかったというわけではありません。日本社会における根深い差別や偏見の中にいて、「日本で同性カップルに婚姻が認められるなんてことはないだろう」と諦めざるを得ない状況にあったといえます。もしも声を上げれば、差別を受けたり、偏見の目で見られるかもしれないという不安も大きかっただろうと思います。
南川弁護士:訴訟は、裁判所の判断を仰ぐという意味合いに加えて、訴訟を起こすことで、またそれが報じられたりすることで、この問題に無関心・無意識だった一般市民の皆様にも、「結婚するという選択肢が与えられていない」という差別があること、それによって実際にどんな不利益が生じているのか、ということを知っていただきたい、世の中に議論を巻き起こしたい、と思っています。
寺原弁護士:アメリカでも、2015年に、連邦最高裁判所が、同性婚を認めない州法は連邦憲法違反だとする判断を下しました。2017年には、同じアジアの台湾でも、同性カップルに結婚を認めないことは憲法違反であるとの判断が出ています。世界各国が同性婚を法制度化し、国内でも同性パートナーシップ制度が少しずつではありますが導入されるようになってきました。日本国内のアンケートでも、同性婚の法制化に賛成するという人が増えています。世の中は確実に動いています。
●「同性婚を法制化したいなら憲法24条を改正しろ」という反対意見
——同性婚に反対する人たちが根拠として挙げるのは、憲法24条1項にある「婚姻は、両性の合意のみに基づいて行われる」の部分です。弁護団ではこの「両性の合意」をどのようにお考えでしょうか?
南川弁護士:同性婚を法制化したいのなら、「憲法24条を改正しろ」という言説があります。しかし、私たちは、「個人の尊重」を定めた憲法13条と「婚姻の自由」を定めた憲法24条1項によって、誰もが自由に結婚する権利が保障されるべきだと考えています。また、憲法24条1項も同性婚を排斥していないと考えています。24条1項にある「両性」とは男女という組み合わせを規定しているという誤解を解いていくのも大事だと思っていますので、そこはしっかり主張していくつもりです。
寺原弁護士:以前は、同性カップルの婚姻届の不受理の理由として、憲法24条1項に「両性」とあることが理由とされることもありました。しかし、現在、自治体は、不受理の理由として、憲法には言及しておらず、民法・戸籍法が「夫婦」という文言を使っていることを挙げるにとどまっています。政府も、同性婚が認められない理由として、同様に、民法・戸籍法に「夫婦」という文言があることを挙げています。つまり、国も、「両性の合意」と定める憲法24条1項が同性婚を禁止しているという見解をとってはいないということです。
南川弁護士:文脈を理解すれば、憲法24条1項は、家と家との関係を結ぶために当事者が知らないところで結婚を決めれていた明治憲法時代からの家制度を否定し、特に女性が自らの意思に関係なく嫁がされていた過去の歴史への反省から、結婚は誰に強制されるものでもなく、結婚する2人自身の意思でするものであることを明確にするための条文だとわかります。憲法は同性婚を禁止していないのです。ですから、私たちは憲法改正は求めていません。
●弁護団が「結婚の自由をすべての人に」と掲げる理由
——昨年は夫婦別姓を求める憲法裁判が複数提訴されました。同性婚憲法訴訟もそうですが、家族のあり方が多様化している現状と法制度がズレてきてしまっているように感じます。寺原弁護士は特に夫婦別姓訴訟の弁護団でもありますよね。
寺原弁護士:別姓を求めるカップルも同性カップルも、国が制度として尊重し、守ろうとしている婚姻制度を崩そうとしているのではなく、むしろその制度の中に入れて欲しいと主張しているものです。現在は、それを国が認めないために、そのようなカップルは事実婚状態となり、かえって国は、家族の実態を把握できなくなっています。国としても戸籍上で婚姻・家族関係を把握したいはずですが、自らが矛盾する対応をしてしまっているといえます。
南川弁護士:法律婚には権利と義務がありますが、安定性という面もあると思います。たとえば、病気などで働けない時、1人だったら生活保護を受給しなければならないような場合も、配偶者がいれば支えてもらうことができるかもしれません。そういう自立できる国民が増えれば、国としても安定します。
結婚は、普通は制度として理屈で考えるよりも、子どもの頃になんとなく「いつか自分も結婚するのかな」と思うようなものでもあります。でも、あるゲイの方がおっしゃっていたのですが、自分が同性愛者だと気づいた時、「自分は結婚できないのか」と目の前が真っ暗になったそうです。制度を利用できない、法律婚のメリットを享受できないということではなく、「自分は社会の中で結婚できない存在として位置付けられている」と思ったそうです。
そう言うと、「そこまでして結婚したいのか?」という人がいますが、別にすべての同性カップルに結婚を推奨しているわけではなく、そもそも選択肢として存在しないのがおかしいという考えです。無理に結婚をする必要はありません。ただ、必要とする人にその権利をあげれば良い。そうすることで、あなたの家族、あるいは友人など、今まで誰にも打ち明けられずにつらい思いをしていた誰かが、少しでも生きやすくなるだけです。
寺原弁護士:今回、私たちが訴訟や弁護団の名称を「結婚をすべての人に」ではなく「結婚の自由をすべての人に」としたのは、そのような理由によるものです。
●「次世代の子どもたちが辛い思いをしないよう」
——これまで弁護士の方たちはこの問題にどのような取り組みをしてきたのでしょうか。
南川弁護士:もともと約10年前に「LGBT支援法律家ネットワーク」という集まりがこの問題に関心を持っている弁護士や司法書士、行政書士などを中心に小さな規模で立ち上がったのが始まりです。今では全国に100人を超え、自治体や学校に研修の講師で招かれたり、シンポジウムを開催したりして、人権問題の課題としてお話しする機会も増えました。そういう地道な活動を有志や個々の弁護士が続けてきていました。
寺原弁護士:これまで、いわば負の連鎖がありました。同性愛等の人々は、法律婚が認められていないことによって様々な不利益を被っているけれども、しかし、そのことを訴えると差別を受けるおそれがあるから声を上げるができない。声を上げないと、社会は不利益の重大さや人権侵害の事実を認識することができず、状況は変わらず、むしろ差別や偏見が助長されていく、といった連鎖です。
そのような状況を変えていくための一つの取組みが、セクシュアル・マイノリティの方たち455人が、2015年7月、日本弁護士会連合会(日弁連)に対して行った人権救済申立です。これは、同性婚を法制化するよう国に勧告を出すことを日弁連に求める申立てで、「LGBT支援法律家ネットワーク」の有志が弁護団を組んでサポートしています。私たちもその弁護団のメンバーです。
南川弁護士:この申立に対しては、日弁連は、なにをのんびりしているのか、残念ながら3年半以上経った今でも、結論を出してくれていないんですよ。
それでも、こうした活動の積み重ねの中で、世の中も少しずつ変わってきて、LGBTという言葉が広まったり、セクシュアル・マイノリティの方たちの中に声を上げる人が増えてきました。「同性婚」に焦点を当てた今回の訴訟は、こうした流れの中の一つの大きな象徴だと思います。
今回の原告のみなさんは、わが事というだけではなく、社会を変えて、セクシャルマイノリティの人たちが生きやすい世の中にしていくために、あるいはこれから生まれる次世代の子どもたちがこれ以上つらい思いをしないですむように、勇気を出して立ち上がってくださっています。この思いが一人でも多くの人に届くといいなと思っています。
特に、明確に同性婚反対論者である方たちだけでなく、「あんまりよくわからない」「考えたこともない」「自分の周りには同性愛者はいないし…」という方たちに、知っていただきたいのです。私たちの社会で生きている、生身の人間がいて、どんなふうに困っていて、どう生きづらい状態におかれているのか。周りにいないんじゃなくて、見えていないだけなんです。多くの人に、これが身近な問題であるということに実感を持っていただければと思います。
愛し合う2人に結婚するという選択肢を社会が認める。ただそれだけのことなのです。知ってもらえれば、きっと理解は広がると信じています。