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強まる「GAFA」規制の動き、検討会が提案した独禁法「一般調査権」のパワー 
GAFAの知名度も高まってきた

強まる「GAFA」規制の動き、検討会が提案した独禁法「一般調査権」のパワー 

グーグルやアップル、フェイスブック、アマゾン(いわゆるGAFA)などの大手プラットフォーマーの規制について検討する政府の「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」は12月12日、中間論点整理を公表した。

関係省庁は経済産業省、公正取引委員会、総務省。中間論点整理では、デジタル・プラットフォームは、ネットワーク効果、低廉な限界費用、規模の経済性などの特性があるため、「独占化・寡占化」が進みやすいとしている。

プラットフォーマーが、社会経済に不可欠な基盤を提供しており、市場そのものを設計・運営・管理する力があることや、技術的な不透明性が高いことなどから、取引環境整備のあり方を検討する必要があるとしている。

公平性を確保するための方策として、独占禁止法40条の一般調査権(強制調査権限)を活用して、大規模・包括的な調査を実施することが提案されている。一般調査権の行使はどのような影響を及ぼすのか。籔内俊輔弁護士に聞いた。

●公取委 vs プラットフォーマーのこれまでの動き

デジタル・プラットフォーマーの活動をめぐり、議論の対象となっている法律分野や法的な問題は多岐にわたりますが、世界的には競争法と呼ばれる分野(日本では独占禁止法の分野がそれに相当します)もその1つといえます。

例えば、社会経済に不可欠な基盤を提供しているデジタル・プラットフォーマーは、市場において強い力を発揮することが可能であり、自社のライバル企業を不当に市場から追い出そうとして圧力をかけたり、または、不当な不利益を課したりすることによって、自由で公正な競争が行われなくなってしまう懸念が生じます。

2018年8月16日付けの報道によると、真偽は定かではないですが、ヤフーが運営するゲーム配信サービスについて、アップルが投資縮小等を迫ったことが独占禁止法違反ではないかとして公取委らが調査をしているとのことです。

また、アマゾンについては、アマゾン日本法人が「マーケットプレイス」の出品者との間で、他の通販サイト等での出品価格よりマーケットプレイスでの価格が高くならないこと(アマゾンで買うのが一番安いか、少なくとも他で買うのと同じ価格であること)等を約束させることで、出品者が他の通販サイトでアマゾンより安く出品するのを差し控えて価格が高止まりしたり、他の通販サイトが不当に不利な立場におかれたりするなど、様々な競争に悪影響があるのではないかという疑いで、公取委が調査をしていましたが、2017年6月1日、アマゾン側の改善措置を受けて調査を終了した旨を公表しています。

その後、こちらも真偽は不明ですが、2018年3月15日、アマゾン日本法人が仕入れた商品に関してメーカーに対して「協力金」を求めていたこと等が優越的地位の濫用に当たるのではないかとの疑いで、公取委が立入検査をしたとの報道もあります。

●個別の違反行為ではなく、事業活動や経済実態に関して調査できる権限

このように、日本でもデジタル・プラットフォーマーに対して、個別の独占禁止法違反の疑いがある場合には調査(独占禁止法47条に基づく調査)がなされたりなどしていますが、中間論点整理で触れられている独占禁止法40条に基づく一般調査権は、こうした個別の違反行為の疑いがある場合ではなく、適正な法運用や政策形成のために事業活動や経済実態に関して公取委が調査できる権限です。

公取委は、調査に必要な報告、情報や資料の提供などを求めることができ、これに応じなかったり、虚偽の報告等をしたりすると罰則が適用されます。

この一般調査権は、長年あまり活用はされてきませんでしたが、近年では公取委が2017年6月28日に公表した「液化天然ガスの取引実態に関する調査報告書」において、液化天然ガスの需要者に対する書面調査で、独占禁止法40条に基づく調査が実施されるなど利用される例が再び現れています。

●一般調査権限の行使によって、秘密保持義務の問題が取り除かれる

一般調査権を用いる背景としては、企業間の取引においては、秘密保持義務を定めた契約が締結されていることが通常であり、公取委が企業に対して取引実態について(法的強制力のない任意の)報告を依頼しても、取引先との間での秘密保持義務に抵触することになるため、報告の依頼に応じることができないという問題があります。

他方で、法的な強制力がある調査権限に基づき報告を求められた場合には、それに応じて報告をしても契約上秘密保持義務違反とならないとか、または、契約の解釈として違反にならない等と考えうるため、公取委も、一般調査権限の行使によって、秘密保持義務による情報収集の困難性が取り除かれ、独占禁止法違反の疑いが具体化する前に、問題発生の予防のための制度整備の検討が行いやすくなります。

一般調査権の活用については、経済産業省が2016年9月15日に取りまとめた「第四次産業革命に向けた横断的制度研究会報告書」14頁でも指摘されていましたが、今回再度指摘がなされ、公取委もデジタル・プラットフォーマーとの取引実態把握に乗り出すものと思われます。

経産省、公取委、総務省は、2018年12月18日、上記の中間論点整理を踏まえ「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」を策定・公表し、その中でも取引の透明性及び公正性の実現のため「大規模かつ包括的な徹底した調査による取引実態の把握を進める」とされており、おそらく独占禁止法40条に基づく調査がなされるでしょう。

今後、調査の結果として取引実態が把握されることで、政府により、デジタル・プラットフォーマーに対して、例えば中間論点整理で挙げられている、取引条件に関して重要なルールや取引条件の開示・明示を義務付ける規制やその他の制度導入や、様々な取組みの実施に向けて具体的検討が進んでいくものと思われます。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

籔内 俊輔
籔内 俊輔(やぶうち しゅんすけ)弁護士 弁護士法人北浜法律事務所東京事務所
2001年神戸大学法学部卒業。02年神戸大学大学院法学政治学研究科前期課程修了。03年弁護士登録。06〜09年公正取引委員会事務総局審査局勤務(独禁法・景表法違反事件等の審査・審判対応業務を担当)。12年弁護士法人北浜法律事務所東京事務所パートナー就任。16〜20年神戸大学大学院法学研究科法曹実務教授。

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