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下着は白のみ、日焼け止めは禁止…学校で増える「ソフトな管理主義」とリスクを見ない矛盾
荻上チキさん(左)と内田良さん

下着は白のみ、日焼け止めは禁止…学校で増える「ソフトな管理主義」とリスクを見ない矛盾

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生まれつき茶色い髪を黒く染めるよう学校から強要された――。2017年秋、大阪府立高校3年の女子生徒が府を相手に起こした訴訟を覚えているだろうか。このニュースをきっかけに、SNSでは次々と「自分はこんな校則があった」とエピソードが投稿されるなど、学校の理不尽な校則や指導に一気に注目が集まった。

そんな中、NPO有志による「”ブラック校則”をなくそう!プロジェクト」が発足し、今年2月に校則に関するアンケートを実施した。その調査結果をまとめた『ブラック校則 理不尽な苦しみの現実』(東洋館出版社)が8月4日、発売された。評論家の荻上チキさんと、学校の安全問題に詳しい名古屋大学大学院准教授(教育社会学)の内田良さんの共同編著だ。

下着着用は禁止、色は白のみ――。調査では驚くような校則の実態が明るみに出た。荻上さんは校現場では「ソフトな管理主義」が強化されていると訴える。一体なぜなのだろうか。

●「下着の色指定」指導が増加傾向に

――アンケート調査結果によると、「強く叩く」「廊下に立たせる」「正座させる」といった体罰にあたる指導を受けた経験のある人は若い世代ほど減っています。一方で、「スカートの長さ指定」「下着の色指定」「まゆ手入れ禁止」などの指導は増加傾向にありました。

(荻上)蓋を開けたら、今の10〜20代の間でソフトな管理主義がどんどん強化されていました。これは、率直に驚きでした。これだけ厳しくなっている状況が本当にいいのか、疑問に思います。

中でも、下着とかスカートの長さなど、細かな服装まで画一化する指導が進んでいます。具体的には「下着の色は白のみ」「夏場に黒いシャツを中に着ていたら脱ぐように強要された」「持ち物検査で生理用品までチェックされる」といった事例が報告されました。ジェンダーを押し付け、学習させる校則が未だに残っています。

――80年代とは異なる新たな管理項目が増加したことで、学校は「再・画一化」が進んでいると指摘しています。どうしてこのような傾向にあるのでしょうか。

荻上チキさん(左)と内田良さん

(荻上)一つは、校則が非行防止という観点ではなく、見た目などで「中学生らしさ」を保つという動機のもと強化されているためだと思います。その背景として、住んでいる住所に関わらず学校を選ぶことのできる「学校選択制」や少子化が進む中、学校による地域へのアピールとして管理が用いられていると考えられます。

「再・画一化」の動きは、どこかの地域の一事情ではありません。全国的に見られました。多様化する社会で子どもたちの個性をより伸ばしていくことが重要なのに、学校のシステムを変えないため、様々な場所で子どもたちへルールを押し付けています。

●子どもの人権が軽視されている

――日焼け止めやリップクリーム禁止など、大人であれば当たり前に利用できるものが、過剰に取り締まられている現状もありました。

(荻上)子どもの人権が軽視されているためだと思います。子どもは合意が必要な対象ではなく、一方的に命令し、権力関係の元で指導することが是だという慣習が社会に残っているのです。

子どもが自己決定できない時には、周りが環境を整えてあげることが重要です。しかし、それを誤認して「子どもは未熟だから、大人の尺度で指導していい」「合意はいらない」「理不尽でもいい」ということではありません。

校則をどうするのかという社会的な合意が固まっていない中で、偶発的に、不透明な形で、校則が乱用されている。これは、権力の私物化にほかなりません。学校を安全で快適な学びの場にしてほしいと思います。

●校則が引き起こすリスク

――内田さんは校則について「意義があるのはわかったが、引き起こす問題の方を直視しよう」と訴えています。校則が引き起こすリスクというのは、どのようなものですか。

(内田)問題のある校則やルールの徹底は、安全で安心な生活を脅かすことにもなります。例えば、学校で日焼け止めをつけてはいけないというのがありました。日本臨床皮膚科医会は学会の統一見解として、過剰な紫外線は健康に悪影響が生じるとして、学校生活においても「サンスクリーン剤を上手に使う」ことを提言しています。

理不尽なルールがあり、不適切な運用がされている「ブラック校則」は、子どもの尊厳を踏みにじるだけではなく、身体に直接的なダメージを与えます。命に関わる問題だと考えてほしいです。

――今年7月には、愛知県豊田市で校外学習に出かけた小学1年生の男児が熱中症で亡くなりました。行く前から体調不良を訴えていたにも関わらず、高温注意情報が発表されている中、校外学習を行ったということです。学校側が引き起こす問題を直視しないのは、なぜなのでしょうか。

荻上チキさん(左)と内田良さん

(内田)集団社会の中で、一人一人が幸せになるように作られているのがルールです。ルールは私たちにとって必要なものですが、学校生活のルールを定めた校則が疑いなく「正しいもの」という前提になってしまい、そこに起きるトラブルやリスクを見えなくさせる一面を持っています。

校則にはリスクとベネフィット(意義)の両面があります。学校という場では、ベネフィットの側を「教育的効果」として過剰に重視しがちです。だからこそ、リスクに気づけずに、教育的効果の方を優先してしまう先生がいます。

また、子どもの安全に関わることは、国や各自治体の教育委員会がもっと関心を持つ必要があると考えます。教育においては各学校の自律性が担保されていますから、文科省や各自治体が個々の学校の細かい規則まで決めたり、直接的な指導をしたりするのはおかしいというのはもっともです。

ですが、保護者から理不尽な校則やルールについて問い合わせがあれば「それは各学校に任せています」と答えるだけではなく、まずは驚いて、関心を持って動いてほしいと思います。

●背景に教員の多忙化?

――この学校にはびこる「ブラック校則」問題。大元をたどれば、教員の業務量が多すぎる、教員が忙しすぎるということも関係していると指摘しています。

(荻上)学校や教員の多忙化によって、生徒個々人に向き合うのではなく、一元的に管理するというニーズが増えているのではないでしょうか。子どもの裁量権をなくして管理すれば、逸脱したポイントが発見しやすく、トラブルを生み出しそうな個別事案を減らすことができるのかもしれません。

しかし、トラブルの芽を摘むという思惑の元、厳しい校則で管理すれば、子どもたちのストレスが増大するだけだと思います。さらに結果として、いじめがおきやすい環境が生まれるなどの問題も生じます。

――地域が学校の役割に期待しすぎている部分もあるのでしょうか。

(内田)市民や保護者が賛同している部分もあるのではないでしょうか。子どもたちの見た目をコントロールすることについては、保護者も慣れきっています。また、学校側も見た目を取り締まることでしか「うちの学校はしっかりやっている」ということを地域に証明できない。

ですが、そもそも、なぜ証明しなければいけないのでしょうか。まずそこを問う必要があります。

学校側が、子どもたちに関する全ての責任を背負っているという状態は、異常だと思います。90年代から、開かれた学校づくりというものが進み、学校は地域の視点を取り入れるようになっていきました。しかし、段々と学校外の顔色を気にするようになってしまい、子どもに対する過剰なまでの学校外でのコントロールが強まっていったように思います。

●「ブラック校則」親子で議論を

――生徒や親の中には「こんな校則やルールはおかしい」と思っても「規則だからしょうがない」と諦めている人も多いと思います。理不尽な「ブラック校則」にどう向き合えばいいのでしょうか。

荻上チキさん(左)と内田良さん

(荻上)何か問題が起こったとき、世の中には変えようとする人と、変えないことを選ぶ人といます。そんな時、もし自分が「変えない」ことを選んでも、変えようとした人の足を引っ張らないでほしいと思います。決して「そこに適応することが重要だ」と言わないでほしい。自分と違う人に石を投げる行為は、規範過剰性のループです。物事を変えようとする社会運動の積み重ねで、世の中はよくなっていくのです。

(内田)常に上からの指示やルールを、自分の中で問い返す力が大事だと思います。

日大のアメフト事件は、上から「やれ」と言われ、そのまま相手選手に突っ込みました。人を傷つけたり差別したりする指導やルールについては、問い直してほしい。自分で考える力を学校教育の中でも育てなければいけません。でも、今は校則がそういった力を奪っています。

ブラック校則と遭遇したら、親子で議論してみてはどうでしょうか。「学校でそう決まっているから」で終わらせず、「何かおかしくない?」という風に。

ルールを守ることは、すごく大事だと思います。他方で、盲目的に従うことがいいとは思いません。考え続けながら、ルールや校則を更新していくことが大切です。

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