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なぜ、兵庫県明石市は弁護士の採用に力を注ぐのか
泉房穂・明石市長

なぜ、兵庫県明石市は弁護士の採用に力を注ぐのか

難関の司法試験に合格し、約1年にわたる司法修習を終えて弁護士登録をすると、大小さまざまな法律事務所に身を置いてキャリアをスタートさせるのが、これまでは一般的だった。ただ弁護士数の増加に伴い、近年は就職先も多様化。ここにきて、「公務員弁護士」という選択肢もじわりと広がっている。特に、基礎自治体である兵庫県明石市が弁護士の採用に熱を入れている。なぜなのか。

明石市は兵庫県南部に位置し、神戸市の西隣にある人口29万の市。JR明石駅から大阪駅まで約40分とベッドタウンにもなっている。

●「公務員弁護士」7人、自治体に活躍の場

明石市職員室によると、2017年12月時点で7人の弁護士が在籍し、市民相談や福祉などの部署でフルタイムの正規職員(任期つき)として勤務している。任期は最大5年で、任期満了後の再任用も可能。来年4月にも1人の弁護士の入庁が内定しているという。

採用活動は、自らも弁護士資格をもつ泉房穂市長(54)の音頭で始まった。2014年度に入庁した5人が1期生。市民相談への対応強化や市が絡む訴訟対応に加え、市役所内部のコンプライアンス(法令遵守)制度の整備を図るのが狙いだ。10年11月に市環境部のゴミ収集担当職員による特殊勤務手当の不正受給が発覚し、その後、管理職を含む33人の職員の処分に発展していた。

公務員弁護士の処遇は、例えば実務経験3年以上7年未満なら、月給は約40万円(年収約810万円)。書類審査と面接で選考する。弁護士会の会費は自己負担だが、同年代の一般職員に比べて給与は高く設定しているという。「優秀な人材に来ていただきたいため」(職員室)だ。

●泉市長「当たり前のことしているだけ」

弁護士ドットコムニュース編集部は12月18日、泉市長に東京都内で単独インタビューを行った。主なやり取りは以下の通り。

ーーなぜ弁護士を採用しているのか

「まず、大きなポイントとして、地方の時代だと思っている。市民ニーズに対して、国を待つことなく、自らの知恵を使って企画立案し条例制定する。そうした中で弁護士が十分活躍できる時代だと思っている。そもそも弁護士についても、裁判において事後的に救済するだけではなく、本当はもっと幅広く活躍できる。当たり前のことをしているにすぎない。リーガルマインドは自治体においても企業においても発揮できる」

ーーどのような効果があるか

「市民にとっては、電話1本で弁護士職員が自宅や病院の枕元まで訪問して相談に応じる。費用はいらず、払っている税金の枠内で相談に応じている。市民にとって頼もしい存在だ」

ーー周囲で抵抗はなかったか

「抵抗が強かったのが市役所の職員だ。弁護士は近寄りがたい存在で、弁護士には関わらない方がいいという感覚があった。今は変わってきていて、いつでも気軽に相談できるようになった。市長就任の前年くらいまでは、市役所業務の年間の法律相談案件は17件、今は1000件を超えている。本来は身近に弁護士がいれば、気軽に相談して然るべきテーマが、たくさんのハンコを押してアポを取って電車に乗って顧問弁護士のところに出向くというのが実態だった。明石市では昼ごはんを食べながら気軽に相談できる。職員にとって心強い」

●市営住宅の家賃滞納、ほぼゼロに

ーー弁護士が活躍する舞台は

「例えば債権回収では、市営住宅の家賃滞納がほとんどなくなった。なぜか。弁護士が毅然と、すぐに裁判をして明渡請求をするから。行政がトロトロやっていて家賃を払わないという悪循環を本来の姿に戻した。一部に、市役所に弁護士が入ることで『商売あがったり』という声があるが全くの誤解だ。不採算事案にもしっかり対応している」

ーー他の自治体でも同様の取り組みは進むか

「明石市の取り組みは広がってきている。今や100近い自治体が弁護士を職員として位置づけている。ただ活用の場所が市役所の法務、総務に限られているのが実態のようだ。明石市役所の場合は現場もある。他の行政職員と同じ仕事をしながら、リーガルマインドを発揮するという状態だ。(他の自治体も)そろそろそういう方向にいってほしい」

●明石市長プロフィール

泉房穂(いずみ・ふさほ)

1963年生まれ。弁護士、社会福祉士、元衆院議員、元NHKディレクター。2011年より現職

(取材:弁護士ドットコムニュース記者 下山祐治)早稲田大卒。国家公務員1種試験合格(法律職)。2007年、農林水産省入省。2010年に朝日新聞社に移り、記者として経済部や富山総局、高松総局で勤務。2017年12月、弁護士ドットコム株式会社に入社。twitter : @Yuji_Shimoyama

(弁護士ドットコムニュース)

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