弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 民事・その他
  3. 高校陸上部「ハンマー」が直撃、サッカー部生徒が死亡…法的責任はどうなる?
高校陸上部「ハンマー」が直撃、サッカー部生徒が死亡…法的責任はどうなる?
写真はイメージです(wavebreakmedia / PIXTA)

高校陸上部「ハンマー」が直撃、サッカー部生徒が死亡…法的責任はどうなる?

群馬県藤岡市の県立高校のグラウンドで12月20日、陸上競技用のハンマー(重さ:約4キロ)が、サッカー部の2年の男子生徒の頭に当たり、亡くなる事故が起きた。

報道によると、ハンマーは、サッカー部の練習場と隣接したハンマー投げの練習場で、陸上部の3年の生徒が投げたもの。陸上部の生徒は当時、ハンマー投げの練習中で、ハンマーは約50メートル飛んだ。亡くなった男子生徒は、サッカー部の練習用具の後片付けをしているところだったという

ハンマーの練習場には、ハンマーが危険な方角に飛んでいかないように防ぐ防護ネットが設置されており、そのネットに囲まれた正規の位置から投げられたとみられるという。今回、ハンマーを投げた生徒や学校は、法的な責任を問われるのだろうか。秋山直人弁護士に聞いた。

●「過失」の存否が問題になる

「刑事の問題としては、ハンマーを投げた生徒や顧問教諭に業務上過失致死罪(刑法211条/5年以下の懲役・禁固または100万円以下の罰金)が成立するかが問題となります。ただし、生徒は未成年なので、仮に罪が成立しても、いきなり刑事処分を受けることにはなりません。

民事の問題としては、ハンマーを投げた生徒に不法行為責任(民法709条)が、群馬県(県立学校の設置者)に国家賠償責任(国家賠償法1条、2条)が認められるかが問題となります。なお、顧問教諭個人が被害者に対して賠償責任を負うことはありません。

刑事でも民事でも、『過失』があったかどうかが、主として問題となります。一般に、刑事責任を問うための『過失』のほうが、民事責任を問うための『過失』よりも厳格な立証が必要とされており、刑事上は『過失』が認められなくても、民事上は『過失』が認められるということも、ままあります」

●女子用ハンマーだったという報道も

「刑事面で、生徒や顧問教諭に業務上過失致死罪が成立するかについては、『過失』が認定されるかが主として問題となります。事故の予見可能性があったか、事故の回避可能性があったか。いずれもあったとすれば、遵守すべき事故回避措置を怠ったことはないか、といった点が検討されます。

報道によると、高校3年の男子生徒が投げたハンマーは、女子用の重さ約4キロの軽いものだったということです。もし事実だとすると、男子生徒が女子用のハンマーを投げれば、通常想定されているよりも、ハンマーの飛距離が伸びることが予想されますから、予見可能性を認める方向で問題になりえます。

また、男子生徒は、防護ネットで囲まれた正規の位置からハンマーを投げたと報道されています。正規の位置から投げたのか、あるいは勢い余って、投擲位置のサークル外に出た状態で投げたのかといったことも、過失の判断に影響します。後から述べるように、顧問教諭が部活動を終えるように指示していたのだとすると、その後になおもハンマー投げを続けたことも問題となるでしょう。

陸上部の顧問教諭については、部員に部活動を終えるように指示してその場を離れていたとの報道があります。指示後も部員がハンマー投げをすることが予見できたかといった点や、顧問教諭がその場にいたとして事故を回避できたか、といった点が問題となります。

民事面で、生徒に不法行為責任が認められるかについては、さきほどと同様に、女子用のハンマーを投げたのか、防護ネットで囲まれた正規の位置からハンマーを投げたのかといった点が問題となります。これまで女子用のハンマーを使って練習したことがあったのか、そのときの飛距離はどうだったのか、といったことも検討が必要だろうと思います。

群馬県に国家賠償責任が認められるかについては、そもそもサッカー部が隣接するグラウンドで練習をしている状況でハンマー投げの練習をすることが事故防止の観点から許されるものだったのか、ハンマー投げの練習時にハンマーの飛距離内にほかの生徒がいないかどうかを監視する体制がきちんと取られていたのか、顧問教諭はそうした体制を指導していたのか、ハンマー投げ練習場の防護ネットの状況やその他の防護設備は整っていたのか、といった点が問題となります」

●過去にも「ハンマー投げ」練習の死亡事故が起きていた

「過去にも、公立高校で、ハンマー投げ練習による死亡事故が起きており、裁判例が公表されています。

昭和50年9月26日大阪地裁判決では、公立高校の校庭で、守備練習中の野球部員が、ハンマー投げのハンマーに当たって死亡した事故について、指導教諭の過失を認定しました。約1050万円の国家賠償を命じています。

この裁判例では、同じ運動場でハンマー投げと野球の練習を同時におこなうことに無理があり、陸上部指導教諭は、野球部員に口頭の注意を与えただけで、部員の動向を十分見極めずにハンマー投擲に踏み切らせた点で過失があり、野球部指導教諭も周辺の安全を確かめずハンマー投擲にも気付かなかった点で過失があると判断しています。

また、平成8年10月11日浦和地裁判決では、県立高校の校庭で、短距離走練習の順番待ちをしていた生徒が、ハンマー投げのハンマーで頭部を直撃されて死亡した事故について、ハンマー投げ練習場の設置管理に瑕疵があると認めました。国家賠償法2条による責任を埼玉県に認めて、約1690万円の国家賠償を命じています。

こちらの裁判例では、サークル内から投擲を開始した場合であっても、防護ネットでは防げない方向にハンマーが飛ぶ事態は予測できた、競技規則においても、防護ネットだけでは不十分で、防護ネットの前方にも移動パネルを取り付けると定められているのに、移動パネル等の防護施設を設けていなかったと指摘しています。そして、これらの点で、学校の営造物であるハンマー投げ練習場は通常有すべき安全性を欠いており、その設置・管理に瑕疵があったと判断しています。

今回の事故は、現時点で、過失が認められるかどうかの判定は難しいですが、以上のような観点から、刑事、民事両面で法的検討がなされていくものと思われます」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

秋山 直人
秋山 直人(あきやま なおと)弁護士 秋山法律事務所
東京大学法学部卒業。2001年に弁護士登録。所属事務所は四谷にあり、不動産関連トラブルを中心に業務を行っている。

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする