日々、膨大なデジタルコンテンツが生み出され、アナログ情報のデジタル化も進んでいる。しかし、これらのデジタル情報をどうアーカイブし、知識として活用、後世に伝えていくかという枠組みは、十分に整備されていない。そこで、デジタル知的基盤の促進や、その基盤を支える法制度などについて検討するデジタルアーカイブ学会が今年5月、設立された(会長=長尾真・元国立国会図書館館長)。
デジタルアーカイブ学会は12月5日、都内で第1回公開シンポジウム「著作権だけではない! デジタルアーカイブと法制度の新たな課題解決にむけて」を開催。現場でどのようなアーカイブが行われているかなどの実例を紹介。その法的問題点や今後の取り組みについて話し合われた。
●青柳前文化庁長官「日本は遅れた存在になりつつあるのはないか」
シンポジウムでは冒頭、前文化庁長官で、デジタルアーカイブ推進コンソーシアムの青柳正規会長が、日本のデジタルアーカイブについて「大変な危機感を覚えている。今や、日本は世界的に遅れた存在になりつつあるのではないか。一刻も早く立て直さなければいけない」と指摘。次のように問題提起をした。
「自然科学だけではなく、社会をどう構築するか、人文系科学からも知恵や知見が生まれ、人類を存在可能にしている。その中で、生のデータが情報になり、情報から知識になり、知識から知恵になり、知恵がソリューションを生み出し、また新たなデータを必要とする。そうしたサイクルの中で情報と知識を保存することが、デジタルアーカイブの大きな役割だ。
現在から未来を見通すには、どうしても過去から見るという作業が必要。そのためには、過去のデータや情報が非常に重要で、今のようなデータの垂れ流しでは、将来に生きてこない。今までは、アナログの情報がデジタル化されていたが、現在ではボーンデジタルの情報も生まれ始めている。これをどう保存整理するのか、確立されていない。デジタルアーカイブのコストを社会が負担すべきという風土もない。
日本のデジタルアーカイブは、EUのヨーロピアナやgoogleに比べ、存在しないぐらい小さく、支えるためにサポート体制もない。法制度の整備などさまざまなことを多面的にやっていかないと、日本のサイバー空間はより知的で活用性のあるものになっていかないのでは」
●孤児著作物や肖像権の法的問題、リテラシー教育をどうするか?
続いて、震災アーカイブなどの事例紹介があった後、デジタルアーカイブ学会理事、福井健策弁護士からデジタルアーカイブに関わる法的問題について解説があった。権利者不明の著作物「オーファンワークス」(孤児著作物)をどうアーカイブしたり、活用するか、アーカイブされた被撮影者の肖像権をどう判断するかなど、その問題点を整理。権利・契約教育の必修化や関係者との対話の重要性、不明権利者のオプトアウト的制度導入、肖像権に関する準公的なガイドラインの必要性などが解決の方策として提示された。
シンポジウム後半では、「これからどう取り組めばいいのか」というテーマで識者たちが議論、アニメや写真のアーカイブ現場から問題提起がされた他、登壇した太下義之・三菱UFJリサーチ&コンサルティング芸術・文化政策センター長は「子どもにクリエーターを体験させれば、権利をどう考えたらいいのかがわかる。小さい時からのそうしたコンテンツリテラシー教育が大事」と語った。
最後に、長尾会長が挨拶。「デジタルアーカイブには、多くの方々の理解とお金がかかる。国としてどう考えてゆくか。全国の地方自治体がその重要性を理解し、お金を工面して、デジタルアーカイブに関して相当な仕事をして、いろいろなところで利用されて、健全な社会が建設される、そういうポジティブなことが起こるよう、少しでも学会がお役に立ちたい」と締めくくった。