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市民グループが「薬物報道」ガイドライン発表「偏見を助長させないで」
「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」のメンバーたち

市民グループが「薬物報道」ガイドライン発表「偏見を助長させないで」

元野球選手やミュージシャンなど、有名人の薬物問題をめぐる報道が過熱しているとして、薬物やアルコール、ギャンブルの依存症問題に取り組む市民団体や当事者、専門家でつくるグループが1月31日、東京・霞が関の厚生労働記者クラブで記者会見を開き、「薬物報道ガイドライン」を発表した。

ガイドラインを発表したのは、「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」。有名人の薬物報道があるたびに「偏見が助長されている」という問題意識から、2016年7月に結成。今回のガイドライン作成にあたっては、評論家の荻上チキさんらの協力のもと、世界保健機関(WHO)が発表した「自殺予防のための報道ガイドライン」を参考にしたという。

ガイドラインは、「望ましいこと」として、「薬物依存症の当事者、治療中の患者、支援者およびその家族や子供などが、報道から強い影響を受けることを意識すること」など8つの項目をあげ、「避けるべきこと」として「『白い粉』や『注射器』といったイメージカットを用いないこと」など9つの項目をあげている。

あくまで、メディアに対する一方的な要求ではなく、当事者や家族が望んでいることを示したうえで、メディアと一緒に報道のあり方を考えていくためのきっかけにしたいとしている。テレビ局や新聞社などメディアのほか、ワイドショー番組のプロデューサーなどにもガイドラインを送付する予定だ。

会見に出席した荻上さんは「もともと、犯罪報道や自殺報道が、具体的な当事者や社会問題を救う、あるいは解決するためのものでなく、その都度ネタとして消費させるだけのツールになっていることを残念に思っていた」「社会的知識を共有すれば問題が解決することがあるが、誤解によって当事者を追い込む代表的なものの一つが、薬物報道だった」と指摘した。

●「回復しようと頑張っている人の足をひっぱらないようにしてほしい」

ネットワーク発起人の1人で、国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦さんは「薬物依存症は犯罪の側面もあるが、同時に依存症という健康問題の側面もある」と強調した。松本さんによると、薬物を一時的にやめることは比較的容易だが、やめつづけることは非常に難しいという。

そのため、有名人の薬物報道で、繰り返し「白い粉」や「注射器」の映像が出るたびに、治療中の人が再使用してしまうことがあるそうだ。松本さんは「回復しようとがんばっている人もいるということも視野にいれてほしい。その人たちの足をひっぱらないようにしてほしい」と述べた。

ネットワーク発起人で、薬物依存者の支援に取り組むダルク女性ハウス代表の上岡陽江さんは自身もアルコール依存・薬物依存・摂食障害の当事者で、何度も自殺未遂したことがあるという。「当時は、薬物やアルコール、摂食障害の問題はまったく知られていなかったので、本当に地獄にいるような気持ちだった」と打ち明けた。

また、「『覚せい剤』やめますか それとも 『人間』やめますか」という薬物撲滅キャンペーンに使われたフレーズに触れて、上岡さんは「わたしたちは、人間じゃなくなったと思った」と振り返った。「スティグマ(社会的な負の烙印)を貼らずに、依存症のことをきちんと報道してほしい」と訴えていた。

この日に発表された「薬物報道ガイドライン」の全文は以下の通り。

●望ましいこと

▼薬物依存症の当事者、治療中の患者、支援者およびその家族や子供などが、報道から強い影響を受けることを意識すること

▼依存性については、逮捕される犯罪という印象だけでなく、医療機関や相談機関を利用することで回復可能な病気であるという事実を伝えること

▼相談窓口を紹介し、警察や病院以外の「出口」が複数あることを伝えること

▼「犯罪からの更正」という文脈だけでなく、「病気からの回復」という文脈で取り扱うこと

▼薬物依存症に詳しい専門家の意見を取り上げること

▼依存症の危険性、および回復という道を伝えるため、回復した当事者の発言を紹介すること

▼依存性の背景には、貧困や虐待など、社会的な問題が根深く関わっていることを伝えること

●避けるべきこと

▼「白い粉」や「注射器」といったイメージカットを用いないこと

▼薬物への興味を煽る結果になるような報道を行わないこと

▼「人間やめますか」のように、依存症患者の人格を否定するような表現は用いないこと

▼薬物依存症であることが発覚したからと言って、その者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わないこと

▼逮捕された著名人が薬物依存に陥った理由を憶測し、転落や堕落の結果薬物を使用したという取り上げ方をしないこと

▼「がっかりした」「反省してほしい」といった街録・関係者談話などを使わないこと

▼ヘリを飛ばして車を追う、家族を追いまわす、回復途上にある当事者を隠し撮りするなどの過剰報道を行わないこと

▼「薬物使用疑惑」をスクープとして取り扱わないこと

▼家族の支えで回復するかのような、美談に仕立て上げないこと

(弁護士ドットコムニュース)

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