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タクシー初乗り「410円」都内で一斉に開始…なぜ「価格」は自由に決められない?
1月30日、タクシーの料金表示のステッカーがいっせいに「410円」に貼り替えられた

タクシー初乗り「410円」都内で一斉に開始…なぜ「価格」は自由に決められない?

東京23区と武蔵野市、三鷹市のタクシーの初乗り運賃が1月30日から、これまでの、「2キロ730円」から「1.052キロ410円」に変わった。

国土交通省の発表によると、380円から410円の幅で選択できる仕組みだが、ほぼ全ての事業者が410円に変更した。初乗り運賃を超えると、237メートルごとに80円が加算されていく(時速10キロ以下の場合90秒ごとに80円加算)。2016年4月から7月にかけて、初乗り運賃の見直しを求める事業者からの申請を受けて、審査を進めてきたという。

他の業種の場合、いっせいに料金を上げたり下げたりすることは「談合」として法令に違反するケースもあるが、タクシー業界の場合はどうなっているのか。今回の料金変更はどんな意義があるのか。独占禁止法の問題に詳しい籔内俊輔弁護士に聞いた。

●タクシー業界「運賃設定の自由は制限されている」

「タクシー事業に関しては、運賃やタクシーの台数等について、道路運送法等の法律によって国(国土交通省)が規制を行っています」

籔内弁護士はこのように指摘する。なぜ、そのような規制があるのか。

「運賃については、タクシー運賃が低すぎるとタクシー事業の収益が低下して、ひいてはタクシードライバーの賃金を含めた労働条件の悪化につながる等の懸念があるとの指摘があり、近年規制が強化されています。

タクシー事業者が運賃を決める場合、事前に申請して国の審査を受けなければならないとされています」

国の審査を経ずに、タクシー事業者が運賃を自由に決めることはできないのか。

「現状では、国が定めた一定の運賃幅から外れた価格を運賃とする場合には、国から厳しく審査をされたり、運賃変更の指導や処分を受けたりする可能性が高い等、運賃設定の自由はかなり制限されている状況にはあります」

●タクシー業界の規制「過剰」との意見も

「今回の運賃に関する変更も、380円から410円の間で、10円刻みで選択できるようになっていますが、この範囲内であれば、国の審査は比較的簡単なもので済むという扱いになっています」

事業者が決められる価格の幅が狭いのであれば、タクシー事業者同士で「この価格にしましょう」と話し合ってもいいのだろうか。

「いえ。この価格の範囲内でも価格競争をすることはできます。ですから、タクシー会社が話合いをして運賃幅の中でどの価格を運賃にするかを決めたりすると、価格カルテルとして独占禁止法違反になります。

実際に、新潟で複数のタクシー会社が、運賃幅の中の特定の価格に揃えるという価格カルテルをしたとして調査・処分を受けた事件も起きています。

今回の運賃変更の背景としては、報道でも指摘があるように、一般の自動車に客を乗せて運ぶ『ライドシェア』の仲介を行うウーバー等の事業者の本格参入への警戒感から、都市部でタクシーの利便性をより高めて対抗していこうという思惑があると思います。

こうした意味で、競争は一定程度存在するのですが、現状のタクシー業界に対する規制には過剰であるとの意見があるのも事実であり、訴訟になっている事案もあります。

規制が必要であるとの意見にも一定の根拠はあると思われますが、タクシー事業に関連する規制が行き過ぎないように競争政策を担当する公正取引委員会もチェックしていくことも期待されます」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

籔内 俊輔
籔内 俊輔(やぶうち しゅんすけ)弁護士 弁護士法人北浜法律事務所東京事務所
2001年神戸大学法学部卒業。02年神戸大学大学院法学政治学研究科前期課程修了。03年弁護士登録。06〜09年公正取引委員会事務総局審査局勤務(独禁法・景表法違反事件等の審査・審判対応業務を担当)。12年弁護士法人北浜法律事務所東京事務所パートナー就任。16〜20年神戸大学大学院法学研究科法曹実務教授。

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