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<AV出演強要>香西咲さん「今でもフラッシュバックに悩まされる」洗脳の過去を語る
香西咲さん

<AV出演強要>香西咲さん「今でもフラッシュバックに悩まされる」洗脳の過去を語る

現役の人気AV女優、香西咲さん(30)が「週刊文春」(7月14日号/7月21日号)で、前に所属していた事務所による巧みな「囲い込み」や「洗脳」によって、AVに出演させられていたと告発して、話題になった。

香西さんは現在、前事務所の社長A氏を相手取った訴訟を起こす準備をしている。どのような「囲いこみ」や「洗脳」があったのだろうか。現役女優が名前を出して、世の中に伝えたかったことは何か。香西さんにインタビューした。

●「君の夢を応援したい」といわれたが…

−−どういうきっかけで、A氏の事務所に入ったんですか?

超大手芸能プロダクションの名刺を持ったスカウトから、五反田駅前で声をかけられたことです。2010年の夏でした。ちょうど、前に所属していた事務所が解散したばかりだったので、「話を聞いてみよう」と思って、エントリーシートを書いて提出したんです。

結局、そのプロダクションは「落ちた」といわれたんですが、同じスカウトから「強いプロダクションはうちだけじゃない。芸能界のドンみたいな人を教えてあげる」といわれて紹介されたのが、Aです。それが2010年10月でした。

−−どのような話をしたんですか?

Aから「君のやりたいことは何なんだ?」と聞かれました。

わたしには、大学生のころから雑貨店をやりたいという夢がありました。同時に日本の性文化が外国よりも異常に閉ざされていることに疑問を感じていたこともあり、美容・健康の延長として「アダルトグッズ」をとり入れた雑貨屋を開きたいと考えていたんです。

当時、よくいえば真面目、悪くいえば、世間知らずで、人を疑うことを知りませんでした。その夢を素直に打ち明けたところ、Aは「君の夢を出資含めて全面的に応援したい。いいか、これから毎週1回90分、ここで2人で君の夢について具体的に詰めていく。やりたいことを具体的にノートに書け。夢はとにかく大きく描け」といいました。それから撮影までの8カ月間、毎週1回の面談をすることになりました。洗脳のはじまりです。

−−どのような内容だったんですか?

Aは、わたしの夢にあわせて「《俺だったら》(『俺だったら』を多用して説明する特徴があり、私はいつもその彼の意見をメモしていました)、たとえばタレント兼女性社長という2つの土台を徹底してつくる」「タレントのほうはストーリー仕立てのイメージビデオを3本つくって起爆剤にしていこう」といいました。あとから考えると、3本というのは、AVの契約のきざみと同じです。そのことを指していたんだろうなと思います。

ほかにも、Aは「雑貨屋は全面的に、出資も含めて応援する」「日本は人口も減っているし、音楽やDVDも売れなくなっている。すべてが飽和状態になっているので、これから目指すなら中国だ。俺だったら中国を目指す」「中国に向けてもいろいろやっていこう、スポンサーも募っていこう」「俺が目指すのはマカオのカジノ王だ。お前もディーラーガールとしてイベントができるようになったら、日本とは比べものにならないレベルのタレントになれる」という話をくりかえしました。

●気がついたら周りに相談できる人がいなくなっていた

−−厳しい言葉や態度をとられることはありましたか?

彼の提案にちょっとでも不安や違った意見をいうと「だったら夢を諦めてこのままババアになって一生誰にも相手にされずのたれ死んで行けばいいじゃないか」「ババアなんて誰にも相手にされなくなったら終わりなんだよ」「俺だったら、若いうちに女という武器を最大限活用してやっていく」といわれていました。

そのときはまさかAVのことだと思いませんでしたが、正直、そのところ20代なかばで、今後どうしようかと焦っていたところもあって、いわれるたびに傷ついていました。これらの厳しい罵声を飛ばされる中で、いつしかAの顔色を伺いながら彼に気にいられるように「いい子」になっていきました。

Aは本当に「頭のいい」人間で、アメとムチをうまく使いわけていました。基本的には「君は俺たちの家族だから」と優しい態度ですが、少しでも彼のいうことに反することをいったら、貧乏ゆすり、睨みなど、あからさまに機嫌悪い感じのオーラを出したり…。

−−出演するまで8カ月も時間をかけて説得するのは相当長いのでは?

そうですね。時間もお金もかけていたと思います。だけど、あとから考えると、AV1本で回収できる金額でした。「もう俺のファミリーだから」「まず身内に応援してもらえないと成功はない」「俺の大事な人たちを紹介するから」と、占い師を含めいろんな業界人を紹介されました。

−−契約内容はどういうものでしたか?

一般的な芸能プロダクションと同じ契約で、簡単な内容でした。前の事務所が解散していたこともあり、次に所属する事務所はとくに慎重に選ぼうとしていました。それで、知り合いの弁護士に相談したところ、「この『M』という会社は実態がない。あやしい」と。そのままAに伝えたら、会社の登記簿と印鑑証明を持ってきて、「ちゃんとあるだろ。その弁護士は何を言っているんだ」と突き返されました。

当時、わたしはレースクイーンやタレントの仕事をつづけていました。「専属契約じゃなくて、自分がもっている仕事はつづけさせてほしい」といったら、契約書の文面を自由に変えさせてくれて、拘束は一切なしというかたちで契約を結んでくれることになりました。だから、やりたいようにできると安心していたんです。この契約書は体裁だけで、撮影後にAVメーカー、事務所、私の三者間の契約書があることを知ったんですけどね。

−−ほかの人に相談はしましたか?

8カ月の間で、「お前の夢を邪魔する奴は、たとえ家族や恋人でも味方じゃない」といわれつづけました。「お前の夢を全力で応援する俺たちが本当の家族だ」と何度も何度も。だから、親や友だちとは疎遠になって、気がついたらAの関係者しか周りにいなくなっていた。「外国ではヌードモデルの市議会議員がいたり、各国に濡れ場のできる宝石女優がいる、お前もそのポジションを目指せ」など、いろんなことをいわれて、頭が混乱して、どうしたらいいんだろうと悩んでも、相談できるのはその人たちだけです。そういう状況で、濡れ場女優とAV女優の違いもわからず、直前は怖くて何もいえず、AVに出演することになりました。

●撮影後に契約書にサイン

−−撮影でトラブルはありましたか?

デビュー作の撮影が終わったあとから、メーカーと事務所と私の三者間の契約があったことを聞かされて、サインをさせられました。契約書には「アダルト」という言葉がありました。そこにはしっかりと撮影前日の日付が刻印されていました。

また、「流通する前に止めてほしい」とAにいいましたが、「ふざけるな。お前にいくらかかっていると思っているんだ」と怒鳴り散らされました。本当に嫌だったけど、後戻りもできず、一方で「本気で応援している」といわれているときもあり、いいように利用されいてるだけのようにも思えるけれど、半分は信じたいという気持ちもあり、その間を揺れていました。

−−撮影内容については?

不本意な撮影が何回かありました。デビュー作もそうですが、「イヤだ、イヤだ」と泣きながら撮影するときもありました。後からわかったのは業界人はこの涙を感極まって泣いているだけだというんですね。「なんで、わたしはこの場でこんな目にあっているんだろう?」と思いつめて悔しくて泣いているなんて誰もわかってくれませんでした。

当日になって初めて撮影内容を聞かされることもありました。ある撮影では見事なまでに、当日まで台本が送られてこなかった。普段はもっと前に送られるんですが…。プロデューサーも「ごめんごめん。台本を送るの忘れてた」って。

−−撮影をキャンセルすることはなかったのか?

自分でいうのも恥ずかしいけども、根が真面目なのでキャンセルしていません。前のプロダクションには、とくに真面目で責任感が強い子が多かったと思います。所属までに長時間をかけて面談する中でそういう性格も見ぬきながら、自分たちにとって扱いやすいとか、お金になるかを考えていたんだと思います。

●「消えてなくなりたいと思うことがある」

−−どうして「洗脳されている」と気づいたのですか?

洗脳されて、完全に利用されていると気づいたのは、「枕営業」をさせられたときです。それまでは疑問に思うところがあっても、我慢しながらつづけていました。

2012年の暮れ、Aから「お前に会いたがっている人がいる」といわれました。なんとなく察知して、「無理です」と拒否したけど、Aは「この件を断ったら、お前のやりたかった仕事は二度とふらない」と怒鳴りつけられました。

その間、事務所を通して積み重ねてきたものがほとんどで、やめてしまったら何も残らない。雑貨店開業もなくなる。そうした状況で、精神安定剤をお酒で飲んで、感情を殺しながら相手をしましたが…。

−−戻れるなら、いつに戻りたいですか?

Aに会う前です。「自分はバカだったな」「もっと勉強しておけばよかったな」と思うことはたくさんありますけど、Aに会ったことで、人生が180度変わったと思います。

当時のことを思い出したら、今でもフラッシュバックに悩まされます。本当に後悔しています。Aの中国に向けたAV女優ユニットプランの中でうまく操られていたのにAから「お前、自分で決めたんだよな」といわれたりしていたので、今でも毎日のように自分を責めます。

本当に消えてなくなりたいと思うときが多々あります。生きていてもしょうがないんじゃないかとか…。Aと出会う前までのわたしはAV女優否定派でした。絶対AV女優なんてならないと思っていました。極端な話、「死ぬ」か「AV女優」を選べといわれたとしても、せめて、ほかの事務所だったら、まだ良かったと思います。

<補足>A氏は8月25日、弁護士ドットコムニュースの電話取材に対して、「回答できない」と述べた。

(後編『<AV出演強要>香西咲さん引退後の夢「人生楽しみたい」「消せない過去として歩む」』(https://www.bengo4.com/internet/n_5045/)につづく)

(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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