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「筆談対応できない」聴覚障害者の居酒屋「入店拒否」で議論に…法的な考え方は?
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「筆談対応できない」聴覚障害者の居酒屋「入店拒否」で議論に…法的な考え方は?

居酒屋を予約しようとした際、聴覚障害者であることを理由に入店を拒否されたとして、「滋賀県ろうあ協会」がJR尼崎駅近くの居酒屋に抗議し、居酒屋の運営会社が謝罪する事態になった。この件が報道され、障害者に対する対応のあり方をめぐる議論が起きた。

報道によると、協会の会員7名が5月9日、JR尼崎駅近くにある居酒屋にファクスで予約を申し込んだところ、翌日、店長から「手話ができるスタッフがおらず、筆談での対応もしていない」と返信があり、予約を断られた。協会から抗議を受けた運営会社が、6月に謝罪文を送り、店長らも協会を訪れて直接謝罪した。

ネット上では「商売である以上、対応には限界がある」と店側を擁護する声や、「日本語がわからない外国人よりずっと対応はしやすいのではないか」などさまざまな意見が上がっていた。一方で、「障害者差別解消法では何か定められていないのか」と2016年4月に施行された法律についての言及もあった。

今回の店側の対応は、法的には問題があるのだろうか。何らかの対策を講じる義務はあるのだろうか。浦崎寛泰弁護士に聞いた。

●事業者に「合理的な配慮」が求められている

「障害者差別解消法には、事業者は、『社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない』と定められています」

浦崎弁護士はこのように指摘する。「合理的な配慮」について、どう考えればいいのか。

「『合理的な配慮』というのは、障害のある人が社会生活を営む上での不都合や支障が軽減されるように調整したり、工夫したり、変更したりすることです。聴覚障害のある人に対して筆談でコミュニケーションを取るというのも、合理的配慮の一例です。

もっとも、一定のコストがかかる場合もあり、事業者側の対応にも限界があります。そこで、法律では、事業者が合理的配慮義務を負うのは『実施に伴う負担が過重でないとき』としています。

何が『過重な負担』なのか、明確な線引きは難しいですが、国が定めた基本方針では、事業者の事業への影響、実現可能性、物理的・技術的制約、費用・負担の程度などを考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断されるものとしています」

●「抗議を受けたのはやむを得なかった」

今回のケースについては、どう考えればいいのか。

「手話ができるスタッフがおらず、手話通訳もいないとしても、筆談で対応することが、はたして『過重な負担』といえるでしょうか。一般的な居酒屋であれば、メニュー表などが備えられているでしょうし、専門の手話通訳がいないと注文ができないとは考えられません。

筆談であれば特別なスキルは不要ですから、常識的に考えて、筆談で注文を取ることが『過重な負担』になるとは思えません。

『合理的な配慮』をすべき場面で、それをしなかったとなれば、『障害者差別だ』と抗議を受けたのはやむを得なかったと思います」

一方で、「店側にも客を選ぶ権利がある」「店の都合を考えずに権利だけ主張するのか」などといった意見があるが、こうした意見についてはどうだろうか。

「『手話通訳がいないと居酒屋も利用できない』というのは、聴覚障害のある人が社会生活をする上で重大な不利益です。そのような不利益を我慢しろというのはまさに差別にほかなりません。

もっとも、障害者差別解消法は、このようなお店を叩くための法律ではありません。差別の解消は、合理的配慮を提供する側と受ける側の『双方の建設的な対話による相互理解』が重要であると、国の基本方針にも明記されています。

今回の協会の抗議も、障害に理解のあるお店が増えてほしいと願ってのことだと思います。

お店側も、今回の出来事を踏まえてサービスを見直し、合理的な配慮が行き届くようになれば、障害のある客もそうでない客も、そのような『質の高い』お店を自然と選ぶようになるはずです」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

浦崎 寛泰
浦崎 寛泰(うらざき ひろやす)弁護士 弁護士法人ソーシャルワーカーズ
1981年生。2005年弁護士登録。長崎県の離島(法テラス壱岐)で活動した経験や、法テラス千葉で障害のある方の刑事弁護を数多く担当した経験から、弁護士とソーシャルワーカー(福祉の専門職)が、分野や地域を越えて、普遍的に協働することができる仕組みが必要だと考え、社会福祉士の資格を取得。特に、障害のある方の成年後見業務、性風俗で働くセックスワーカーの法的支援などに力を入れている。2018年4月弁護士法人ソーシャルワーカーズ設立(代表弁護士)。

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