日本未公開の海外映画のセリフを勝手に日本語に訳し、字幕データをネット上に公開したなどとして、東京都内の50代男性が7月上旬、著作権法違反の疑いで京都府警サイバー犯罪対策課に逮捕された。
報道によると、男性は2015年5〜6月、著作権を保有するアメリカの映画会社の許可を得ずに、日本未公開の映画「ポルターガイスト」の音声を日本語に訳し、字幕を作成したうえ、そのデータをネット上に公開した疑いが持たれている。
男性は、ネット上で違法配信された映画の英語字幕を見て、翻訳サイトなどを使って日本語に訳していたという。海外映画の字幕を無断につくり、アップしたとして検挙されるのは、全国初ということだ。そのポイントはどこだろうか。著作権にくわしい桑野雄一郎弁護士に聞いた。
●無断で翻訳・複製すれば「著作権侵害」となる
「映画のセリフ、脚本は、小説などと同じように『言語』の著作物です。
問題となった映画は、有名なスピルバーグの作品ではなく、リメイクされた日本未公開の作品だったようです。クレジット上、脚本の著作者はデヴィッド・リンゼイ=アベアーとなっています。
ただ、映画会社に著作権が譲渡されている可能性もあり、公表されている情報からは著作権者が誰かわかりません。
いずれにせよ、無断で翻訳・複製をすれば、脚本についての翻訳権や複製権の侵害になります」
桑野弁護士はさらに、逮捕された男性が翻訳サイトを使って日本語に訳していたところに着目する。
「著作権法上の『翻訳』というためには、翻訳作業にオリジナリティがあり、その結果、翻訳者にも著作権が成立することが必要です。
しかし、単に翻訳サイトを使って訳しただけでは、オリジナリティはありませんから、そのような場合にあたりません。ですから、著作権法上は『翻訳』ではなく、単なる『複製』と評価されるでしょう」
●映画の「著作権」と脚本の「著作権」は別物
報道によると、逮捕された男性は字幕データを海外の字幕専用サイトに公開していたという。
「映像を使わないので、映画の著作権侵害にならないだろうということで油断してしまったのかもしれません。しかし、映画の著作権と、脚本や音楽の著作権は別物です。
今回のように、脚本(セリフ)などを映画から切り離して使う場合、それぞれの著作権について考える必要があります。
他方で、脚本(セリフ)などを映画作品として利用する場合、基本的に映画と一心同体になっていると考えて、それぞれの著作権については意識しなくてもよいでしょう。
なお、著作権の保護期間が切れた映画の字幕つきDVDが、手ごろな価格で売られています。そのようなDVDについて、『著作権の保護期間が切れているのだから、複製しても著作権侵害にはならない』と思う人がいるかもしれません。
しかし、これらの映画の字幕は業者が『翻訳』して映像に追加したものですから、映画の著作権と別に字幕に対する翻訳者の著作権が成立しています。
したがって、無断で複製などすると、字幕に対する翻訳者の著作権の侵害となってしまいますので、注意が必要です」
桑野弁護士はこのように述べていた。