不動産営業のトラブルの様子をYouTubeに投稿するなどして名誉を毀損されたとして、不動産会社元社員が、NHKから国民を守る党(NHK党)の党首立花孝志氏を訴えていた裁判で、東京地裁が11月26日、立花氏に44万円の支払いを命じる判決を下したことを毎日新聞が報じました。
報道によると、元社員の男性が不動産営業でNHK党の党員男性の自宅を訪れた際にトラブルになった様子を、立花氏が自身のYouTubeチャンネルに投稿し、動画内で、元社員の男性について「犯罪者」などとコメントしていました。裁判では、こうした点が名誉毀損にあたるのかが争われていました。
一方で、立花氏は、亡くなった兵庫県の元県議に対する、名誉毀損の容疑で11月28日付けで起訴されたと報じられています。
民事と刑事で名誉毀損が問題となっているわけですが、どこに違いがあるのでしょうか。
●本件は「民事」上の名誉毀損の事例
名誉毀損には、犯罪として罰則を科す刑事上の名誉毀損(刑法230条)と、損害賠償を請求する民事上の名誉毀損(民法709条など)があります。
刑事事件は国家が刑罰を科すもので、民事事件は被害者が金銭賠償などを求めるものという違いがあります。
●民事上の名誉毀損は「不法行為」として判断されます
今回のような民事上の名誉毀損は、不法行為(民法709条など)として扱われます。
民事上の名誉毀損は不法行為の枠組みで処理されます。具体的には、「権利侵害」「違法性」「故意・過失」「損害の発生」「因果関係」といった要件を満たす必要があります。
そして、実務上、これらの要件の有無を判断する際に、刑法上の名誉毀損罪(刑法230条、230条の2)の判断枠組みが参考にされています。
刑事上は、名誉毀損罪が成立かどうかは、以下の3つの段階を経て検討されます。
1)公然と事実を摘示し、名誉を毀損したか(230条1項)
不特定または多数の人から認識できるような状態で(公然と)、人の社会的信用を下げるような事実を示した(事実を摘示)場合に認められます。
2)真実性の証明がある場合には、処罰されない
公共の利害に関する事実について、公益を図る目的で事実を摘示した場合であり、かつ、摘示した事実が真実であるという証明がある場合には、処罰されません。
3)真実だと信じたことについて相当な理由がある場合、処罰されない
真実性の証明(上の「2」)に失敗した場合でも、確実な資料や根拠に照らして、真実であると信じたことが相当であると認められる場合には、処罰されません。
以上のような判断枠組みが、民事上の不法行為が成立するかどうかの判断にも用いられています。
●社会的評価を下げる事実の摘示があるか(上の「1」)
本件で問題となっている立花氏の発言は、YouTubeで行われており、「公然と」といえます。
また、元社員の男性について「犯罪者」などと発言したことは、元社員の男性が不動産取引において脅迫や犯罪行為、証拠隠滅といった違法行為をしたとの印象を与えるものであり、社会的評価を下げるといえますので、事実の摘示にあたると考えられます。
●「真実性の証明」はできていないと判断された(上の「2」)
次に、社会的評価を下げる事実を摘示しても、その行為が「公益性のある事実について、公益目的で発表し、かつ真実である場合」には、例外的に名誉毀損に基づく不法行為は成立しません。
報道によれば、今回の裁判では、立花氏の発言内容のうち、元社員の男性が脅迫して不動産売買をしようとした旨などの重要な部分が真実であると裏付ける証拠はないと裁判所は指摘したと報じられています。これは、真実性の証明ができなかったということでしょう。
●真実であると信じることについて、相当な理由もないと判断された(上の「3」)
また、たとえ真実でなかったとしても、「摘示した事実を真実であると信じることについて相当な理由がある場合」も、違法性が否定される場合があります(真実相当性などと呼ばれています)。
具体的には、発言者が十分な調査や確認を行った上で、その事実が真実だと信じるだけの合理的な根拠があった場合です。
本件では、報道されている判旨からは必ずしも明らかではありませんが、真実相当性についても認められなかったと考えられます。真実相当性が認められていれば、不法行為が成立しないこととなるからです。
以上から、立花氏の発言の違法性は否定されず、民事上の名誉毀損が成立し、元社員への損害賠償が命じられました。
●本件の争いは複雑
報道では、この元社員の男性は、トラブルとなった党員に対しても名誉毀損に基づく損害賠償請求をしており、裁判所は名誉毀損を認めて88万円の支払いを命じているそうです。
また、逆に、党員も、この元社員の男性から暴行を受けて負傷したとして損害賠償を請求しているそうです。この請求についても、元社員の男性の「正当防衛だった」とする主張は認められず、元社員に対して20万円の損害賠償を命じたそうです。
なお、本件は地裁判決であり、まだ確定したわけでもない点にも注意が必要です。
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)