事件の情報がネット上に残り続け、社会復帰などに影響を与える状況が顕在化しつつある。近年は、加害者だけでなく被害者遺族からもネット上の情報を削除するよう求める裁判が起こされるケースも生まれている。こうした「デジタルタトゥー」の問題にどう対処すればいいのか。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
最高裁判所(ワンセブン / PIXTA)
●デジタルタトゥー、二重の罰に
ネット空間に流れた情報は拡散しやすく、検索で簡単に見つけ出すことができる。
便利な反面、一度でも過ちを犯したことがある人にとっては「デジタルタトゥー」として残り続け、完全に消し去ることが難しい。
事件に関する記事について、多くの報道機関はニュースサイトに掲載する日数を限定し、一定期間が過ぎると削除している。
だが、記事を掲示板や個人のブログ、SNSに無断でコピーする人がいるため、元の記事が消えた後もネット上に残り続けるという事態が生じている。
私(記者)がこれまで取材してきた受刑者の中には、「ネットで自分の名前が出てくるか調べてほしい」と頼んできたり、服役中に名前を変えようと塀の中から家庭裁判所に申立書を送ったりする人がいた。
自業自得だと思う人が多いかもしれない。そう片付けるのは簡単だが、デジタルタトゥーが立ち直りを難しくし再び犯罪に向かわせる要因になっているとしたらどうだろうか。彼らはいわば「二重の罰」を受けることになる。
東京地裁が入る建物(弁護士ドットコムニュース撮影)
●被害者遺族にも影響「好奇の目に晒されるのは耐え難い」
加害者だけの問題ではなくなりつつある。
今年3月、ある事件で子どもを殺害された親が、亡くなった被害者の名前が載った投稿がSNS上に残り続けていることについてプライバシー権の侵害などとして投稿の削除を求めた裁判で、東京地裁が訴えを退けていたことがわかった。
原告側は裁判で、「不特定多数の好奇の目に晒されるような状況は親にとって耐え難い苦痛である。本件被害者の氏名を現在も公開し続ける社会的必要性や公共性は失われている」などと主張していた。
デジタルタトゥーによって引っ越しを余儀なくされた人がいると話す田中一哉弁護士(田中弁護士提供)
●司法の判断に変化の兆し
デジタルタトゥーの問題は司法の場にも持ち込まれている。
2022年6月、最高裁はツイッター(現X)に残る過去の逮捕記事の投稿を削除するよう命じる判決を出した。
この裁判で原告代理人を務めた田中一哉弁護士(東京弁護士会)によると、ネット上に残る逮捕歴などの削除を巡っては、2017年に最高裁が「公表される利益」と「公表されない利益」を比較し、公表されない利益の優越が「明らかな場合」に限ると条件を付ける初の判断を示した。
これ以降、削除が認められにくくなっていたが、2022年の最高裁判決が出てからはツイッターの投稿を消せることが増えているという。
田中弁護士もデジタルタトゥーによって就職できなかったり引っ越しを余儀なくされたりする人に出会ってきたといい、次のように話している。
「社会に復帰できない人が増えていくことは社会のためにならない。実名報道にも疑問はあるが、個人情報保護法は報道機関を除外しているので、現実的な考え方としては個人がそうした記事を長期的に流通させられなくなると良いと思う」