元AKB48メンバーで、実業家でもあるタレントの川崎希さんが2月11日に放送されたフジテレビ系「ワイドナショー」に出演。かつて妊娠時に「流産しろ」などとインターネット上で受けた嫌がらせの書き込みについて発信者情報を開示請求してきた取り組みを振り返った。
川崎さんはこれまで、訪れたレストランに無銭飲食や窃盗をしていたと虚偽の連絡をされるなど、ネット上での中傷を受けたのは「1日1万件以上」だったという。2019年に「プロバイダ責任制限法(プロ責法)」に基づいて発信者の特定に動いたが、認められるまで半年から1年ほどがかかったと明かされた。
ネット上の書き込みが明らかな嘘であっても「それを信じる人がいて、信じた人からまた攻撃される」と対応の難しさを語った。
国は2021年に開示手続きを簡略化しようとプロ責法を改正し(2022年10月施行)、対策強化に向けてさらなる改正を検討している。
法改正で、手続きの流れや期間はどう変わったのか。今後求められる改善策は何か。ITの法律問題にくわしい清水陽平弁護士に聞いた。
●「手続き1回で済む」はミスリード
改正の大きなポイントの一つとして、「発信者情報開示命令事件」という新しい裁判が作られたことが指摘できます。
改正前は、コンテンツプロバイダ(以下、CP=X、GoogleなどSNS事業者等)に対してIPアドレス等の開示請求仮処分という裁判手続を行い、開示された情報をもとに、アクセスプロバイダ(以下、AP=ドコモ、KDDIなど通信事業者等)に対して開示請求訴訟をしていくことが必要でした。
APへの訴訟は、通常の裁判なので時間がかかりましたが、改正後は、APへの開示請求で発信者情報開示命令事件を用いることができるようになっています。発信者情報開示命令事件では、審理時間が通常の裁判に比べて相対的に短く、判断も早く出ることから、結果として相手が特定できるまでは早くなっているといえます。
プロバイダ責任制限法の改正前と後の手続きの流れ(総務省資料を元に弁護士ドットコム作成)
また、発信者情報開示命令事件では、提供命令、消去禁止命令という付随的申立が可能となっており、これを活用することで、手続きを早く進めることができる場合があります。
もっとも、一部報道されたような「1回の手続きで済むようになる」というのはミスリードであると思います。複数の申立てが必要で、手続きも複雑です。また、相手が提供命令に応じるのか、応じるとして対応までにどのくらい時間がかかるのかを知らないと、時間を浪費してしまうこともあります。
また、発信者情報開示命令事件では、決定が出てから強制執行(間接強制)ができるようになるまで30日かかります。強制執行をしたいと考える事例の場合、仮処分だと発令後すぐにできることから、有利と言えます。
このように全体としては手続きが早くなった反面、どんな手続を取るべきかの選択が重要になったという印象があります。
●コンテンツプロバイダの迅速対応が必要
開示されるまでの期間は、全体では短くなっていると思いますが、劇的に早くなっているということはないでしょう。
結局複数の申立てが必要になることや、相手もしっかりと争ってくることが増えており、請求する側の負担は、むしろ重くなっている部分も多いと感じます。また、全体としてかかる費用は改正前後でそれほど変わっていないと言えます。
発信者情報開示命令事件では、CPへの開示請求において電話番号やメールアドレスの開示請求が可能で、これが活用できるのではないかと想定していたのですが、そもそも登録をしている人が多くはなく、特定できる例は多くはありません。
そのため、CPに対しては、改正前と同じくIPアドレス等の開示を求めることになりますが、特に海外CPはログ(記録)の調査だけで2~4カ月くらいかかるのが現状で、それだけでAPのログ保存期間を過ぎてしまいかねない状況があります。
法律として使いにくい部分や、実務上の不備と考えられる点も明らかになってきているため、法改正を考える必要もあると思います。しかし、そもそもCPの対応に迅速性がなければ手続きが進まないことから、その点を促す施策を検討する必要があると思います。